03


「ディアナ?!」
『はい?』


静かな図書館に響いた驚きの声に、彼女は振り返った。
そんな彼女の姿を見て驚いていたのはアッシュだ。確かに「今日」の彼女は他の兵士達の視線をも集めている。


「お、お前、足。」
『あぁ、やっぱりこれのせいですよね。』


カツンッと、一つ音。
まだはきなれていないらしい、少しゴツめのロングブーツで数歩、歩いて示してみせる。


『一応、ずっとまえから考えては居たんですが、時間と材料も足りませんでしたし、これを期に作ってみました。』


元々、音機関は彼女の得意分野だ。それこそ、「あの機械」の設計にすらかかわったのだが、なかなかそこまでの実力を持つものも居ないだろう。
「足」を失ったときから考え付いていたものではあったのだがいかせん、彼女には自分の事よりもより重要でより優先するべき事案がたくさんあった故、いくつか試作品を作って放置していたのだ。
その一つを引っ張り出して使ってはみたが、今まで移動は車椅子に頼っていただけあって歩いての移動は周りの注目の的になった。
気にするだけ無駄だと思うのは、彼女の性格柄だろう。


「・・・すごいな、そんなものも作れるのか」
『研究者として作ってみたいと思ったものを作ってみた。ただそれだけですよ?』
「それでも、すごいさ。」


アッシュが思っていたことは単純に「凄い」ということだけだった。
彼はとんと機械には疎い。日常的なものの操作であれば問題はないだろうが、それらが壊れた時には何が原因かを追求する前に幼馴染があっさりと直していたことを思い出してしまう。
だからこそ、己に出来ないことをあっさりやってのけてしまった、だれもやったことのないものをやろうとしたディアナを素直に尊敬し宝こその言葉だった。
そんな純粋な視線と言葉にくすぐったい気持ちになりながら彼女は笑う。素直な感想は酷く昔になくしたものだった。


『長時間、使うことはまだ出来ませんが、少しは稽古もつけられるようになると思いますよ。』
「!本当か」
『まぁ、私は第7音素しか使えませんから術の基礎的なことしか教えられませんけれど』


さらりと言う。その言葉にさらにアッシュは驚いたように目を見開いた。
元々、つかってはいないだけでディアナは第7音素をつかうことは出来る。ただ、「あの日」以降術は使っていないのではないかと記憶の片隅に残るのは「あの日」あんなにも悔しげに叫んだ彼の姿があったからだ。
もともと、彼の前では使わないようにしようとしていたからまずは自分の感覚を取り戻さねばと思わず苦笑いをしてしまった


「ディアナはなんでもできるんだな。」
『・・・いえ、私は無力ですよ。』
「でも、俺には出来ないことたくさんできるだろ?」


それは自分が彼に向けていたものととても似ていて非なる感情なのだろう。口をつぐんだがすぐに微笑む。


『・・・貴方よりもずっと長く生きていますからね。アッシュ、もう戻りましょうか?』
「わかった。何かもって行くものはあるか?」
『ありがとう。今日は特にありません。』



ただ、この日常が続いてくれればそれで良いと、素直に思うことはきっと間違いじゃない。




************



もともと身体を動かすことが得意ではなかったのだが、そうわがままばかりは言っていられない。
夜な夜な訓練室に誰も居なくなれば彼女がそこで訓練をしていたことを知るのはシンクただ一人だった。もともと彼の訓練もかねているためだが。


『シンクは本当に体のバランスが強いですね。』
「そう?」


ヒョイヒョイと平均台をこなし、並べられた器具の上を飛んで回る彼はさながら鳥のようだ。
それを見ながら言った言葉に彼は平然と言う。


「アンタだって少し前に比べれば「それ」使いこなしてるじゃない」
『これは私の移動手段ですからね。』


カツカツと平均台を歩いているディアナにシンクは言った。少し前よりもすらりとしたタイプのロングブーツに変われば彼女の努力が見て取れる。本人はそれを努力ではなく「当たり前」というが。


「ねぇ、「おかあさん」ってなぁに?」
『え?』


突然の質問だった。
あまりにも突発的なことにバランスを崩して平均台からおちた彼女に「何やってんの」と不思議そうに彼は首をかしげる。


『・・・お母さん、おかあさん、ですか・・・』


口ごもってしまうのはしかたないのか、
あいにくなことにピンと来るものがないのが現実だ。


『ざっくりいうなら、女の親。ですか。子を育てる女の人のことです。私はある意味あなたの拾い親…ということにはなりますか。』
「じゃあアンタは僕のお母さんってこと?」
『まぁ、そう、なんですかね…』
「ふぅん」


苦笑いを溢しているディアナとは裏腹にふわりと重力を無視して傍に降り立ったシンクはそのまま座り込んでいる彼女に抱きついた。


『どうしました?』
「なんか、嫌なこと聞いたみたいだから」
『いえ、嫌ではありませんよ。ただどう答えていいのかわからなくて』


ふわふわとしたその髪が彼女の頬を擽る。
きっと部屋にあった本を読んだのだろうと思いながらポンポンとその背を撫でた


『母親というのは、子供の帰ってくるところだと私は思います。だから、あなたは絶対に私のもとにかえってきなさい。』
「うん。」



ーーー



戻る 進む


(お題#指切り様)
(物語が崩壊する七つの禁忌)
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -