鍛錬


金属のぶつかりあう音とともに、息がきれる。
けれど口元が楽しくてつりあがってしまうのは、許してほしい。実際、楽しいと思うのはいままでこうして一緒に訓練をしてくれるヒトがいなかったからだ。
チャクラム型にしたアビスをユウのイノセンスである六幻とぶつけあう。そのまま両手に持ったそれを投げつけて距離をとるが、彼は彼で勢いを付け私のほうに飛んでくるが、それを体術でいなして意識を投げつけたほうに向ける。


『R(リターン)!』
「もうその手にはひっかからねぇよ!」


そのまま声を上げれば風を切って投げつけたチャクラムが勢いよく手元に戻ってくる。実はこの手で前回ユウの六幻を弾き飛ばしたが今回は無理だったようだ。残念。手元に戻ってきたアビスを集合させて巨大化させた。


『ちょっと休憩したんだけどなぁ、』
「なんだ、もう疲れたのか?」
『疲れたっていうか、ユウの勢いすごいんだもん。』


ただでさえ、彼の手数は多い。私も私でそこまで運動神経がいいわけでもないので、彼の動きについてくのが手一杯なのだ。もともと普通の女だった私がここまで動けるようになったのは主にクロスが武者修行というより強制的にAKUMAと戦わせられたし、あら治療である。


『一応女の子って忘れないでね!』


こうして彼といくつもの手で手合わせできるのはありがたい。ありがたいが、底なしの体力があるわけじゃない。私は比較的普通の女の子、なのだ。そう信じたい。


「…しかたねぇな。休憩にするぞ。」
『ん、食堂行こうよ。おなか減ったし。』
「…ちっ」


血ぶりをして、彼は武器を納める。それにホッとしながらこちらもイノセンスの発動を解いて息をついた。


『それにしてもユウ、もうずいぶんなれたね。』
「あ?」
『ここにきて2週間かな。そろそろ任務も振られるだろうし、頑張らなくちゃね。』


それから身をひるがえして歩き始めれば一つため息をこぼしながら彼が私の隣に並んで歩いてくれた。
それにしても、最近は特にイノセンスの新しい情報がないから酷く平和である。
こうして稽古で武器を交えることはあっても外で生死をかけることがないからすこし緊張感にかけてしまうが、それは私たちエクソシストだけ、今も戦場でイノセンスの情報を集めるために奔走してくれているファインダーの存在がある。レンさんは元気だろうか。


「アイリーー!」
『リナ』
「お帰り!!」


森の入り口。教団内部へ通じるその通路の前にいた少女が駆け寄ってきた。
そのまままっすぐ私へ飛びかかってくれば、くるりと回って、ユウと私の間に割りこむ。


『ただいま、リナ。』
「ご飯、食べに行こう!待ってたの!」


リナとユウがあったのは彼が教団にきた初日だ。
人見知りするタイプじゃないと思っていたリナが私の後ろに隠れ、彼をにらみつけていたのが懐かしいとおもうぐらい、今はこうして三人で過ごしている。
私にとっては妹のような存在である彼女だけれど、ユウにとってはやかましい幼馴染…のような立ち位置になるのだろうか。
だったら、私とユウはどの立ち位置に当たるのだろう…。私の精神年齢的には正直息子…と言ったら怒られそうだ。


ともかく、こんな平和がずっと続いてほしい。
そう思っていたのに、人生とはやはり波乱の連続なわけである。


20190816




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