夜の逢い引き


教団に帰還すれば泣きながらリナリーが抱きついてきた。
それを慰めている私の頭をクロスが「よく無事に帰ってきたな」と撫でてくれる。

ティエドール元帥がユウと共にイノセンスは持っていってくれたから、報告書を書かなくちゃいけないのかと億劫になった。
っていうかこんな子供に報告書なんぞかけると思うな。らくがきして渡すぞ。


『それにしても、子供ばっかり神に認められるのね。』


リナリーをなだめ、その場から逃げ出した私は悪くない。自室でベットに体を投げ出してため息をつく。
ユウも私とほとんど変わらない。たしかに日本の伝承で「7つまでは神のうち」というのがあるが、いや、それにしたってだろう。
たしかにクロスは大人だし、教団の中に成人のエクソシストがいることも知っている。けれどそれにしたってだ。
この先どうなるかなんてわからないのに。
こんな子供ばかりに守られる大人なんてあわれで仕方ない。

まぁ、運もあるのかもしれないけれど。


『本当に神様は勝手。』


ため息をついて目を閉じた。
頭の中に思い浮かべるのは今まで自分が生きていた昔とここに生き直してからの僅かな平凡と怒濤の数ヵ月。
私がもっと普通の女の子であればあの小さな協会のなかでもっとうまく立ち回っていたらここに来なかったのかもしれないけれどそもそも、私が転生というものをしているのがおかしいのかもしれない。
寝返りをうって、目を閉じる。
目の奥に焼き付くようになったのは前世、小さい頃よくいっていたお寺の蓮の池。
小さいながらにきれいだなとか、そういう風に思っていたけど今思えば小さいのに蓮の花に興味が一番引かれるのはきっとおかしい。

コンコン。


『え?はい』


考え事に耽っていたがノックオンに体を起こす。
時計がないこの時代に今何時かはわからないが実際にそこそこ夜の時間だと思う。
急いでドアに向かって鍵を外せばそこにいたのはユウだ。
思っても見なかった来訪者に何度かまばたきをしてしまったのだが、


『どうしたの?迷子?』
「んなわけあるか。」
『だよね。知ってるけど、』


さらっと聞いてしまったがその事が一番かけ離れていることは知っている。案の定少し不機嫌にさせてしまったようだが、


『本当にどうしたの?長旅でつかれたでしょ。』


私は任務が終わってから一日は休むことができた。彼は列車でずっと旅をしていたんだ。疲れていない訳がない。だったら何故私のもとへ?と思ったがお互いにだんまりなままだ。


「くそじじいが。」
『え?じじいって、ティエドール元帥?』
「…女には優しくしろって」


視線が横にずれる。それに彼が彼で不器用なことがすぐにわかって笑ってしまった。


『うん、ありがとユウ。だけど今日はお互いにゆっくり休もう?ユウに紹介したい子もいるの』


きっとユウには人との関わりが少ないんだろう。リナリーがそうであるように。
ユウもリナリーもまだ子供だ。ヒトとのかかわりかたも大人との接し方もわからなくてしかたない。
だからせめてヒトとヒトとの関わりが持てるように少しでも手伝えればいいなとは思う。

私たちはいつ命を落とすかわからないのだから。


『おやすみ、ユウ。』


190419




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