遺すもの


黒の教団のすぐ最寄り。
とはいってもここからは結構歩いたりなんだりするのだがそこに到着してから、少しだけ時間がほしいと二人にたのんで単独行動をすることにした。

と、いうのはリナリーにお土産を買ってあげたかったからだ。
ただ、この服はすごく目立つからこの格好で出歩きたくないというのが実のところだけれど、そうもいっていられない。

イノセンスはすでにティエドール元帥に任せてあるから完全に身軽状態で町に繰り出した。


…繰り出した、つもりだったのだが、


『別についてこなくていいよ、ユウ』


私の後ろを歩くユウに苦笑いをこぼす。第一印象悪めだと思うんだが、彼は鼻をならしただけで元帥のところに戻る気配はない。
とはいっても、これから教団に在籍するのであれば彼の荷物を揃えるために元帥がおくりだしたとも考えられるから、無理に追い返すことでもないのだが。

さて、何を買おうか、とぐるりと明るい町を見回した。



*Side Yu

変な女だと思った。年は俺と同じくらいか、それ以下か。
邪魔そうなほど長い髪に、着ているのはエクソシストとしての服。その胸にローズクロスという証をつけて、堂々とたっている。

どうやら、俺を助けたこのティエドールという男とは知り合いらしい。
けれど、すぐに上と下、のような態度を取っては男は寂しそうに笑ってごまかしていた。

年のわりにずいぶんと大人びた子供だと思ったのが、第一印象。
けれど、彼女からかけられた言葉に、苛立ちを覚えてしまったのがいけなかった。


「ユウ君。女の子には優しくしなくちゃだめだよ、」


ティエドール元帥と二人になった部屋のなかで言われた。
寝てたんじゃなかったのかとジト見してしまったが、「よっこいしょ」なんて体制を直して、笑う。


「確かに、君から見れば彼女は恵まれているかもしれない。でも、あの子は父親を亡くし、母親はAKUMAになって、そのAKUMAに銃口を向けられた、ただの女の子が、世界のために戦わなくてはいけなくなった。」
「…」
「目的のために生まれたユウ君とは違うけど、平凡に笑えるはずだった未来を失ったのは同じなんだよ。」


俺は、エクソシストなんて大嫌いだ。
けれど、「あの人」を探すためにその手段として、エクソシストになることを決めたし、あいつをあんな風にした教団を許せない。

いつか、逃げ出してやる、なんておもったが、それが神を裏切る行為にしなければいいだけだということも、わかっている。


「だから、ユウ君。君は誰かをその刀で守れるようなヒトになっておくれ」


「私もまだまだ、できている訳じゃないけどね」とまたうとうとして眠っていた。


俺の世界はあの場所だけだった。そこから一年この男について回って、戦術を磨き今に至る訳だ。

だが、汽車を降りて少しだけ時間がほしいといった彼女に少々興味ができたのは、いままでそういったことをしてこなかったからだと思う。

俺がついてくることに少々不思議そうにしていたが、それでも彼女は彼女で楽しそうにしていた。
それこそただの少女といった感じだ。


『ユウ、女の子だったらどっちが似合うかな。やっぱりピンクかな?』
「しらねぇよ、つか聞くな。」
『なんでよ、ついてくるんだったら少しぐらい相談にのってよ』
「あったこともねぇやつの贈り物なんてえらべねぇっての」


『そうだよね、』なんて苦笑いをこぼして、十字の刻まれた金色の黒字のプレートにあうような色を探している。
それと同じプレートで一つは淡い紫色のリボンを選んだらしい。
おそらく自分のものか。


『本当はね、これが使われなければいいって思ってるんだ』
「あ?」
『後ろに、名前を掘ってもらうの。エクソシストは悲惨な死しか遂げられない。AKUMAの毒によって姿も残らないかもしれない。その時に、誰かわかるようにって、団服のボタンにも名前は掘ってあるんだけどね、でもそれは回収されちゃうって聞いたから、リナリーにはそうなってほしくないけど装備型の宿命みたいなもんだし』


『リナリーは緑にしよ』とその色のリボンを選び直して満足していた。


「なぁ。」
『うん?』
「俺のもえらんでくれるか」


そういったのは、気まぐれ。
けれど何度がまばたきして、俺の背に背負っているものを見て、また寂しそうに笑った。


190222




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