嵐の前の静けさに
小さなリナリーは私の二つ下だという。本当に幼い子。
教団に入ってからリナリーがずっと傍にいるようになった。
子供がたった一人で大人の中にいることの不安さを今までリナリーは感じてきたから仕方のないことだろう。
クロスは「元帥」と仕事をしなければならないからなかなか会うこともできなくなったが…
たまに時間を見つけては修行をつけてくれるがそれ以外はなるべく負担にならないようにおとなしくしているがそれでも時には一人で暴れまわっている。
人には会わないような教団の後ろにある森で一人で武器を振り回すことが多くなってる。
リナリーはそのことを知ることはないだろう。そうなるようにアイリは時間を選んでる。
『発動。』
ぽつり、つぶやいたその言葉が手首についたブレスレットを輝かせる。緑の浄化の光が形状を変化させてそれは身の丈以上の鎌になる。
その鎌を手に取り、目を閉じる。
縦に持っていたそれを、横に持ち替え、ふぅっと息を吐いた。
『展開』
そして息を吐くように、つぶやくようにそういえば持ち手の部分がチェーンのようになり体を中心に螺旋を描く。
一つ一つが鋭利な刃物を生やし、うまく機動力さえ生まれればこのまま突撃してもAKUMAを破壊できそうだし、何よりもこれなら守りもいける気がする。
まだまだわからないことだらけだけれど。
『アビス。』
ぽつりとつぶやけば光を放った私のイノセンスはまた手首に巻き付いて発動前の状態に戻る。
それにふぅっとため息をついて目を閉じた。
最近は不思議な夢をまたよく見るようになった。
枯れてしまった蓮畑。
私のその視線の先には短髪の、少し外めに髪のはねた青年がいて私に微笑みかけている。
けれど、私はそのあと彼の屍を抱いて泣いているんだけれど…。
『(嫌な夢…)』
まだ前世の夢のほうがましかもしれないと思いながらまた一つため息をついて、木に寄りかかる
満点の空を見上げればひどく近い気もした。
ここの標高が高いからなおさらだろう。
『会いたい…』
いったい誰に。
つぶやいてから目を閉じる。
ふわりと風が髪を揺らすが、それすらも懐かしく感じてしまうのはいけない。
私は私であって私以外の何物でもないのだから。
「また一人でいたのか。」
暗い世界の中で聞きなれた声に目を開けば私の前に膝をついて顔色をうかがっている。
珍しく、眉間にしわを寄せて少しご機嫌斜めのようだ。
暗い森の中に二人きり。
静かなのは酷く久々な感じすらする。
『そう…、悪い?』
「無理してるか」
『してないよ。大丈夫。』
ぽんぽんと頭を軽くなでられる。
クロスのそんな仕草は本当に心配してくれているときだけの私の特権だ。彼のある意味の素顔。
もう一度目を閉じて、体の力を抜くように、息を吐く。
それから再び目を開いてクロスに笑いかければ、彼もいつもの笑みを浮かべた。
すこしいじわるな、そんな笑み。
「なら晩酌に付き合え。」
『私お酒飲めないよ』
「誰が飲ますか、お前はジュースだ」
『うざー』
手を差し出されて立ち上がる。いまだにクロスを見上げなければ彼の顔を見ることはできないけれど、だっこされないだけましだと思う。
今思えば、クロスに会ったのは8歳の時だ。クロスのロリコンを疑うが、まぁ仕方がないだろう。
この性格だ、子供になんて思われない。
『クロス。』
「あ?」
『助けてくれてありがとうね。』
だから少しだけ素直になってみようと思ってぽつりとこぼして、彼よりも先にあるきだした。
20160916