消える存在
彼女はもともと人だったのだという。
半透明な体を持つ優しい声の持ち主はヘブラスカ
キューブという位のセンスの適合者なのだとクロスが説明してくれた。
彼が戻ってきてから変な白い服を着たおじさんもいたが私を見ると表情を険しくさせ去っていく。
クロスがあっていたのは「室長」だということだったからおそらく彼がそうなんだろう。
私があまりにも幼く室長が求める「兵士」としてのそれがたりないとおもったのか、
どっちにしろ私が苦手な部類だということは間違いない。
「い…い…イノセンス…」
片言のような、その声。そっと、半透明な手が私に伸びてきて、目を閉じた。
ふわりと体が浮いて不思議な浮遊感と体の中を探られるような気持ち悪さに変な感覚がよぎるがそこまでではなく。
こつんと額に当てられる冷たい感覚。
「75…81…86… 89パーセント。」
そして紡ぎだされた数字と、だんだんと降下していくその感覚に目を開けば、いつの間にか後ろにクロスがいて、彼女がおろしてくれたのだと知る。
「89%…それがイノセンス…との…適合…率。」
『89…』
高いのか。といわれれば高いのだろう。
頭を撫でられて上を向けばクロスはヘブラスカを見上げていて、「他にも見つけただろう」と口を開いた。
「他」とはなんなのか。
私すら知らないことにむっとしてしまうが、「まだ、目覚めて、いない。」と彼女もこたえるから、きっとそれは私の腕に光るものと同じ存在。
「アイリ…」
ヘブラスカが私を見る。あの高い塔の地下に当たるここは、声が不思議な響きを持つ。
見上げたまま、返事をすれば彼女は口を一度つぐんだ。
「お前は時の破壊者を、導く、華になるだろう…。灰に埋もれ、芽吹くまで、時はかかる…が…日の光が照らす、その時、美しい華を咲かせる。 どうか、神の加護があらんことを」
そして紡ぎだされたそれは、不思議な言葉だった、
泥から芽吹く華。
土だったらそれは普通だが、灰と敬称されるそれはかなり限られてくるとは思う。
いや、灰はものが燃えた後で土と変わらないのかもしれないけれど…。
私には到底理解のできない領域というわけだ。
「リナリー…を…しってい…る、か?」
『えぇ、もう会ったわ。』
「とて…も、不安定…どうか、支えて…やってくれ…」
この世界には敗者と勝者しかいない。
きっと、神−イノセンス−に選ばれた私たちは敗者だ、
勝者なんかじゃない。それは選ばれる13人のノア達も一緒だ。
敗者同士の戦い。
どっちが勝者にもならない、戦い。
どうせ私たちは歴史の闇に埋もれて消える存在。記憶に名を残すこともない消される存在だ。
それを語れるほど、この体の年齢は刻まれていないが、記憶は倍生きているから。
『まかせて。』
世界から消える存在を支える、
そんな愚かなことでも、かなえて見せよう。
叶えてほしいと願う人が、いるのであれば。
そんな私を複雑そうな目で見降ろすクロスに気が付かないふりのまま。
201607