朝日が昇る。
武田の女中から受け取った蒼い浴衣を見に纏い武田の城門に立っていた。
横には文七郎がいて、少し心配そうな表情をしている。
つい先ほどまで「まだ寝てなくちゃだめっす筆頭!!」と一悶着あったばかりだが、関係ない。
おそらく人質の人数があるからどうしても歩きになるだろうどんなに早くても帰りは朝になる。
だからあの後はゆっくり休み、今はこうしてここに立っているわけだ。
休んだんだからいいだろうと言わんばかりに仁王立ちしていれば文七郎の方が折れた。
そうでなくても職業乱用、私に指図できるのは小十郎だけだ。
がやがやとし始める空気に、ぱぁっと文七郎の表情が明るくなる。
「お前ら!!」
そして駆け出していけば、わーーーっと大騒ぎになる。
伊達軍らしいテンションに口元が緩んだ。
人質に取られていた三人のその後ろから、小十郎の無事な姿を見て、また笑う。
『朝帰りとは良い度胸ね、小十郎』
「政宗様。」
いじわるを言うようにそういえば、小十郎は私の姿に驚いて口を一の字にする。
相変わらずいかつい表情だこと、なんて少しばかり他人事。
くつくつと笑い、寄りかかっていた城門の柱から小十郎のほうへと歩きだせば「政宗様!」「筆頭!」と彼らも私を呼ぶ。
「政宗殿!!片倉殿は!!」
そして小十郎の後ろからついてきていた真田も驚いたように、そして小十郎をかばうように前に出るが、違う。
案外私は演技派なのかもしれないな…なんて考えながら、小十郎の目の前まで歩み寄る。
少しだけ私より高い小十郎。
見上げるように彼を見れば私をわずかに見下ろす。
『よく帰った。』
言葉に出したのはそれ。
きょとんっとする真田の姿を視界の端に収めながら、するりと小十郎の傷跡に指を這わす。
小十郎は私の願いをかなえてくれた。それだけで何よりだ。
『お前らもだ、よく「生きて」帰ってきた。Thanks』
生きていれば、また強くなれる。
生きていれば、また大切なものに気がつける。
今回生きて帰ってこれたからこそ、こいつらは新しい「何か」に気が付くことができただろう。
私のたったその一言に「ひっとぉお…!」と感極まっている連中に苦笑いしてしまう。
でも、確かなんだ
『さっさとその体の汚れ、落として来い。武田の連中にはいってある。』
『お前もだ、小十郎』といえば一瞬驚いたように目を開き、それから「御意」と一言そういって彼らを連れて先に屋敷のほうに入っていった。
そうすれば、私と、真田と二人だけになる。
忍はおそらくどっかに隠れてるだろう。
まぁ別にかまわねぇ、どっかで聞き耳立ててるだろうからな。
『大切なやつらを助けてくれて、ありがとうな、真田幸村。』
「い、いえ、某は当たり前のことをしただけで」
『お前のそれは当たり前じゃねぇ、優しさだ。猿飛にも礼を言っておいて。』
くるりと身をひるがえして小十郎たちの背をおう。
後ろで「政宗殿!」と名を呼ばれ、また振り返る。そうすれば真田はじっと私を見ていた。
その横には、猿飛。
いつの間に、とは思ったがあいつも忍だ、いつどこから現れようと不思議じゃない。
「政宗殿は、なぜおなごの身でありながら戦場に出るのでございまするか」
けれど、突然言われた言葉にきょとりとしてしまう。
別にいままで当たり前に戦場に立っていたからこそ、そういわれることの疑問。
だが、まぁ、真田からすれば疑問なのか。
『…私はね、戦で大切な弟を殺した。』
「な…」
『その時決めた、守るもののために自分の力を使おうと。 だからこそ私は守るために戦場に立つ。それだけよ』
にこりと笑って、告げた言葉。
それは真田にどう映るのかわかりはしないが。
だがしかし。
『あんたも、お館様の民のために戦う、将だろ?』
きっと、「幸村」も守るもののために戦う一人だと、勝手に思って。
竜は願っていた。
その青空のように平和な未来を。
もうすぐそれが覆されようとも
今の幸せをただひたすらに願っていた
20160905