曇天は雨を呼ぶ。
雷鳴を響かせて大粒の雨を降らせている。
一瞬のざわめきが武田を包んだが今はそれほどではない。
が、バタついてるのは見える。
泥と水。
武田の屋敷にそんな足跡。
『おい、真田。』
「政宗殿!申し訳ありませぬ、今立て込んで」
『人手がいるならうちのに声をかけろ、』
武田信玄に伝えるつもりがその姿もなく、政宗が向かったのは馬屋。
そこには武器の代わりに多くの材料を持つ真田幸村の姿があり、そんな彼に向けていったのはその言葉だった。
きょとりと瞬きを繰り返す彼に『お前の忍の姿も見えねぇ。伝言役で一人忍は連れていけ。必要なものを伝えろ。』と政宗は続ける。
彼女も「国主」。敵の地にいるが、だからこそ、どこが弱点かを知っている。
『武田には救ってもらった恩がある。』
「っありがたい!!」
『馬は借りるがな』
「うむ!!」
今は敵ではない。
そうなれば手だすけをするのは当たり前だ。
政宗が振り返れば、こちらを見ている伊達の兵士たちがいてひとつうなづいて見せれば、表情を変えてはしっていった。
すぐに準備が整うだろう。
くるりと身をひるがえして歩きだした政宗の横を先ほど走って行った良直たちがすれ違っていく。
人手は必要だ。
『小十郎』
「はっ」
『嫌な予感がする。』
こういうときの自分は嫌いだと、心底彼女は感じていた。
武田信玄が一番に消えたのは、「力」が必要だから。
なぜそういう事態になった?
『っ私たちも行く。』
「御意、すぐに支度を。」
守るべきものがあると、守らなければならない。
その心を誰よりも知っているからこそ、今のこの現状が。
***
雨は嫌いだ。
何か喪う時は大体雨が降っていた。だからこそ、そんな雨が嫌いだった。
真田よりも少し遅く城をでて、馬を走らせる。
ずいぶんと薄くなってしまった「昔」の記憶の中を思い出す。
確か「武田信玄」は自分の領地を「水害」から守るためにその対策をしていたはずだ。
水害となればこの雨の中あわてるのも理解ができる。
だが、あのおっさんが作るそれが簡単に崩れるわけがない。
なら…なぜ…
『(何かが引っかかる。)』
それが引っかかってイライラする。
兜をつけていない今の私じゃ簡単に表情はつかめてしまうかもしれないが、雨の視界の悪さに頼ってみることにした。
「政宗様、そろそろ到着する模様です」
『あぁ。』
だんだんと水音が激しくなってくる。
そして、あるはずのない金属の音。
あぁ、いやな予感とはこれだったのかと改めて政宗は感じた。
馬を止める。真下は切り立った土の壁。
もちろん舗装はされているが、その場所で、動き回る真田幸村と先に行かせた良直たち。
そして、武田信玄と、銀色。
『っ明智…!!』
武田信玄の後ろには彼の民がいる。
もろくなった堤の前ではあの力は強すぎる。
それが、おそらく明智光秀の狙いなのだろう。
力を使わせないために、
『っすぐに縄を準備しろ』
「はっ」
あとから連れてきた連中にそう指示を出した。
これから起こるのは信玄が「危惧」していた水害だと、気が付いているからの行動だった。
現に、明智から緑色の…そのオーラのようなものがあふれ、攻撃の軌道によって強い風。
それも人が吹き飛ばされるほどの力。
そしてそれは信玄が穴をふさぐために使ったであろう巨大な岩を破壊し、そして水があふれ出る。
すでに腰ほどまでに及ぶ水は激流だ
だからこそすぐに支持を出した政宗は正しい。
だが、
『っ武田のおっさん!!上だ!!』
足を取られ、すぐに動けない。
明智光秀がそれを狙っていないわけじゃない。
政宗が叫ぶ。けれどもう遅い。
かなりの高さに飛びあがった明智光秀は、笑い声を上げながら信玄の左肩へとそのままの勢いで鎌を突き刺した。
赤が散る。
「っお館さまぁああああああああああああああああ!!!」
そのまま明智の足場にされ、水の中へ消えた信玄を追って、彼を呼び、幸村も川の中に消えていった。
一瞬は幸村を目で追っていた政宗だったが、すぐに、刀を抜いていた。
意外に近くに着地してきた明智を威嚇するためだ。
戦うためじゃない。
今、川の中にいる仲間を助けている仲間のため。
「やはり生きていましたか、独眼竜…」
彼女を見た明智は口角を上げる、
雷鳴が鳴り響く。
その中で、二体一。
だけれどそうともいかないのはわかり切ったことだ。
雨の中での、邂逅
守るための行動を甘く見る。
守るために刃を握った。
それは「彼女」の思いだった。
20160905