腹に食らった銃弾の痛みなんて気に出来なかった。
崩れ落ちた先ほどまで戦っていた男は妻である魔王の妹に抱かれている。
怒りが、憎しみが、頭の中で揺らめく。
なんでだ、私を殺すためだったんだろう・・
なのに、なんで・・・
「市・・ここは戦場だ。 貴様の来るところでは、ない・・・・」
弱弱しく、そういう浅井に魔王の妹の瞳に涙がたまって行く。
それとは裏腹に、そいつらの背景には再びこちらに銃弾を打ち込もうと構える集団を見る。
その中心には、あの銀色の男がいる。
「お役目ご苦さまでした。
お市様・・・。 もっとも、期待した働きは何一つして頂けませんでしたが結果は良しとしましょう。」
その言葉はタンタンとしていて、まるで目の前のこの光景が当たり前のような口ぶりで、
それに、怒りがどんどん募って行く。
やめろ、テメェ、
それ以上、そいつを・・・
「浅井へのお市様の輿入れは、もともと朝倉攻めの布石だったのですよ。」
「・・・」
「あなたとのことは勿論、浅井の主だった武将達を惑わし、戦力をそぐのがそのお役目
だったはずなのですが。」
おどけ、そして口を動かす。
告げられる真実、
浅井の瞳がゆるりと驚きに包まれて開かれる。
逆に、見ていられなくなったのだろう魔王の妹は視線をそらした。
「お市様は、何もせぬ宙ぶらりんの人形のとなってしまわれた
愚かにもアナタを愛してしまい、自らの正体を明かすこともできず、さりとて織田の密命をまっとうするわけでもない。
なまじ夫婦の絆など育んだが為に、より残酷な結果を招いてしまった」
その言葉には咎めが入っている。
攻めている、お前が、やったことなのに・・・っ
「周りの者をすべて欺き、不幸に陥れる。
見目麗しくもおぞましく、そして罪深い魔王の妹・・・」
「市・・・」
あぁ、そうか、
こんなにもこの世界は・・・
名を呼ばれて身体を振るわせる、涙を流して、震えている。
痛々しい・・・。
どうして、こんな気持ちになるんだよ・・・。
「貴様、ずっと・・・私を欺き続けていたのか・・・・・」
「・・・ごめんなさい、長政様・・・・
市は、長政様を、浅井の人々を・・・・」
ぽろぽろと、涙を流して苦しそうに浅井から目をそらしている彼女が、辛そうで・・・
「みんな・・・市のせい・・・ごめんなさい・・ごめんなさい・・・!」
ただ謝り、そして涙を流すだけ
でも、そんな彼女の頬に伸ばされた浅井の手。
その手はするりと滑って魔王の妹と、目を合わせる。
「・・・辛かったであろう・・・・」
「っ…」
添えている手で、魔王の妹の頬を流れて行く涙をそっと親指で拭い、微笑んでいた。
苦しいであろう、
でも・・・
「もう、めそめそと泣くな」
まるで最期を悟っているかのような・・・
優しさを孕ませた、声と表情。
なによりもそれが・・・
『(こじ・・ろう・・・っ)』
あの子を思い出して・・・。
「理の兵たちよ、許せ・・・
ここに朽ちることは無念だが・・・・・この長政、命ある限り、信じる正義を全うした・・・
市・・私は間違っていなかったと、言ってくれ・・・」
「長政様は間違ってない・・・間違ってないよ・・・」
彼女の声は震えていた。
執筆日 20130910