「おそらくはひんけつとねぶそくでしょう。
あんせいにしていれば、いずれめをさまします。」
「・・・っそうか、よかった」
保険医である越後の軍神、上杉が言った言葉にひとまず安心する。
だが、言った言葉に、不安になる。
寝不足・・・か・・・
「(俺は始めっから記憶があるわけじゃなかったからな。)」
初めて「俺」の記憶は四国が襲われたときのものだ
血に濡れた大地。
頭がない、黒焦げの、体の切れた
俺の腕の中には息絶えた仲間が抱えられていた。
ぬるりとまるで今流れているかのように、血が俺にかかっていた
飛び起きて、すぐに吐いた。
手に、ずっと血の感覚が残っている感じがして、見えない赤が俺にまとわりついて気持ち悪くて・・・
寝るのが怖くなった。
で、結局ぶっ倒れて・・・また、俺は・・・俺は・・・ ッ
『儂は徳川家康!
長曾我部元親とみる、 儂に力を貸して欲しい!』
だが、俺の前に現れたのは今よりも少し小さい、千代だった。
小さくても自信家で・・・でも、弱弱しくて
本当、子供だった。
まぁ、負けちまったんだが・・・
だがひとつの仮説に辿り着く。・・・もしかしたら・・・
「さいかいのおによ」
「っうお、なんだよ」
「あまり、とうしょうどのをおいつめてはなりません」
だが、いきなり言われたその言葉に固まる
意味がわからず上杉を見れば、寝入っている千代の頭を撫でて微笑んでいる。
まるで父親が、娘に見せるような笑みだ。
「このこはどうしたらよいか・・・まよっているのです。
かこをもつわたしたちと、どうせっしてよいか、ふくざつなのでしょう
とうしょうどののこころのなかで、うずまき、そしてこのこの・・・千代のこころにもえいきょうしているのでしょうね・・・」
「っだが・・・」
「もどかしいのはわかります。
ですが、このこはおおくのつみをおかしました。
それを、さいかいのおに、あなたはむりにでもおもいださせたいとおもいますか?」
そして、言われた言葉におしだまる。
・・・あぁ、そうだ・・・
千代は・・・家康は・・・俺をはじめ、多くの人間に恨まれた。
俺も結局和解できずに、あえずに、終わった。
歴史を知った今は・・・なんで信じてやれなかったんだと・・・
記憶のある石田にあった時はもしやとおもったが、千代にはなくて・・・結局謝れちゃいねぇんだ。
「さいかいのおに。」
「な、なんだよ・・・」
「わたしはこれからしゅっちょうにいかなければいけませんから、千代のことをたのみますよ。」
なんて、考えてたらいわれたその言葉に一瞬意味が分からなかったが、だが、にこりとわらって「頼みますよ」なんていわれてやっと理解した。
・・・つまり、サボりかよ
その後、上杉は一通りの荷物を持った後に保健室を出て行った。
シャッとカーテンで千代の寝ているベットを仕切って俺もその中に入る。
ベットに腰掛ければスプリングが小さく音をたてた。
「千代・・・」
そっと、千代の質の良い髪に触れる。
あの頃よりも少し長くなった髪。
それを優しく撫でながら、目を細めた。
「すまなかった、俺ぁ・・・怖かったんだ・・・」
聞かれていないのを良いことに、口を動かす。
本当の、俺の本心を・・・
「家康・・・お前が怖かった。」
千代として会った時間、家康として会っていた時間。
どっちもどっちくらいの長さ、
何より家康として会ったときは、本当に・・・
「怖かったんだ・・・ 変わっちまった・・・お前が・・・」
姫若子なんて小さい頃は言われていた、だが、千代は本物の姫。
弱くて守ってやりたく様な、小さな女
なのに、それを変えたのは時代の流れだ。
小さい女の背には大きすぎる希望と、10万という多くの民の想いという鎖がまきついて、酷く行き辛かったんじゃねぇだろうか・・・
それでも・・・千代は・・・笑っていた。
そう、笑ってたんだ。
『元親、私はいつか三成を手にかけるだろう、 頼む・・・私の元には来ないで・・・三成の下にいてあいつを支えてやってくれ
なに、私の頼みだ・・・。お前の仲間の命は奪わない。』
政宗の話しによれば、女という立場もあってそうとうつらい立場だったらしい。
石田を殺した後は、西軍に所属していた兵の圧力も加わり余計にその小さな身体に大きな圧がかかっていった。
俺ぁ、毛利との戦で相打ちでそのまま俺は散ったが・・・
千代も・・・その後自ら命を散らせた。
「なぁ、家康・・・いや・・・千代・・・」
俺は、もう一度、お前と笑いあいたい。
*-*鬼の思惑*-*
(だから目を覚ましたときは、お前を助けたんだって)
(これも何かの縁だろ?って笑って)
(友達になろうと、笑おう。)
執筆日 20130603
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