「いい?何かあったらこれを吹くんだよ?」
『なに、か?』
「うん、何か。
もしも迷子になっちゃったりしたら絶対だよ。」
『うん・・・・』
ぎゅぅっと首にかかった笛を握りしめる弁丸様は正式に俺様の主の一人になった、
あれから、なんとか食べ物も食べるようになったし大将にも会うことはできた。
でも、人には全然慣れてなくて…だから俺様と一緒に街に降りて少しでも人に慣れようということ
だけど本当に何が起こるかわからない。
手を差し出せば縋り付くように両手を伸ばされて、まだ小さいその手が俺様の手に回される
髪もまだ切ってないからうまく結い上げて引きずらないようにしている。
でもそのうち切らないとね、痛んじゃってるしなんて思う、
それに絶対に離れないし大丈夫だと思う。
『う、う、さすけ…』
「大丈夫だよ、離れないでね?」
『あい…』
町に降りればあまりに人の多さにその手はガタガタと震えていた。
きゅうっと小さく縮こまってしまって、まだ早かったかなって…
だけど、懸命にいっぽいっぽ進む姿はひどくかわいくて…
でも、簡単な考えすぎた。
「っ弁丸様…」
人ごみに紛れてふいに離れてしまった手。はっとしたけどもう遅かった。
小さい弁丸様の体は簡単に見えなくなってしまって、町民に混ざるために質素な着物を着ていたから全然わかんなくなっちゃって
不意に泣きそうになった。
「(どうしよう、俺様のせいだ…っ俺様の…っ!!)」
人ごみをかき分けて進む、
あの子が笛さえ吹けば気が付ける。
だいじょうぶ、だいじょうぶだと息を切らせてしまった
けれど、人気がないところまで行けば、不意に聞こえた悲鳴。
はっとして走る
そうすれば、変な男に手を無理やり手を引っ張られて引きずられるように歩くあの子の姿。
プツンっと何かがきれて、
『う、あぁあああああん!!!』
「ごめん、ごめんね、 手を離してごめんね、怖かったね、ごめんねっ…」
数秒のうちに俺様の腕には小さな体があって、場所は下町から少し離れた森の中。
かわいそうなほど震えてしまって、自分の愚かさに気が付く。
きっと恐ろしい思いをしただろう、ぎゅぅっと抱きしめて腕の中に閉じ込めて、温かい体温にやっとほっとできる。
『ごめ、なさい、さす、けはわるく、なぃ、
手を、はなしたわたし、が…ぁ』
「っ…」
あぁ、あぁ、なんて、この子は…
「帰ろう、大丈夫、帰ろうね。
帰ったらまた甘味を作ってあげるから、だからまたお外に出よう?」
『うん、かえ、るぅ…』
一度しっかりと抱きしめてそれから急いで城へ帰るために落とさないようにして樹を蹴って、蹴って走った
こんな小さかった子が
『佐助行ってくる。』
数年後には、結い上げでなく元服をして…名を「真田源次郎幸」と改めて初陣を迎えるなんて、
『滾る…
この胸がどうしようもなく…滾るの…っ』
紅蓮の華と…虎姫と呼ばれる兵士になるなんて、だれが思うか…
それでも俺様は…
貴女がどんなに変わっても
『佐助っ』
小さいころから変わらないその笑顔が、好きだった。
*-*姫虎と夕日色*-*
この笑顔を失うことが
ひどくおそろしく…
向けられなくなることが…
どれだけかなしいことかを…しらなかった
*-*-*-*-*-*-*-*-*
本編でチラっと乗せるつもりで書いていたので長くなってしまいました!
すいません!!
幼少期、ということで甘味好きになった理由や佐助がオカンになる前をちらっと書いたり…←
ご期待に添えていればうれしいです!
このたびはフリリクありがとうございました!
執筆日 20130826