ふわり、ふわり、
彼女の周りに花が舞う。
季節外れの桃色の花の花びら。
畳に散らばるそれを、いとおしそうに彼女は目を細めていた。
しゃらり・・・
何かの気配を感じで顔を上げれば、彼女の髪をゆんでいる桜の簪が儚い音をたてた
「幸。」
『かすがどの・・・、おかりなさいませ。』
しゃっと、静かに開いた障子と金色の光に、彼女・・真田幸は微笑んだ。
一言、あぁっとかすがは言うと幸のそばまで歩き、そして、そっと幸の頭を撫でた。
気持ちよさそうに目を細めてそれを受け入れている幸はさっそくかつて戦場に乱れ咲きしていた紅き華・・・猛々しく紅い槍を振り回す若虎の姿はない。
どちらかといえば人懐っこい猫、といったところだろう、
「良い子にしてたか?」
『はい、部屋から出れぬことは酷く退屈ですが、
もう戦も無い泰平の世ですからこういうのも悪くはないです。』
「そうか。」
そんな幸の様子を当たり前に取り、かすがはそういってそっと幸を抱き上げた。
『いつもいつも、申し訳ありませぬ。』
「仕方ないことだ、 また訓練をすれば歩けるようになる。」
『はい、』
あの日、
風魔の攻撃から真田十勇士が一人、鎌ノ助を守った幸はほとんど瀕死の状態だった、
運良く、一命は取り留めたものの・・・唯一の不運といえば風魔の攻撃が彼女の足の筋を傷つけたということだろう。
そのせいで、走ることは愚か歩くことも難しくなった幸は誰かの手を借りなければどこにもいけず、天女が帰ったことも知らない幸は武田がどうなったのかも知らない。
もう知る必要も無いのだと彼女は泣いた。
その思いをうけとってか、かすがも、そして幸を上杉領へとかくまうことを許可した上杉謙信も武田や伊達、しいては四国・安芸・三河・大阪と各地へと幸の素性を明かさずに居る。
「おぉ、かすが ちょうどよいところにきましたね。」
「謙信様!」
「はかなきさくらよ、たいちょうはどうですか?」
『頗る快調にございまする、』
奥の、奥。
しかし、外の世界に触れられて、でも誰にも接触されないように厳重に監視がついている場所。
そろりっとその部屋へと幸をおろした。
執筆日 20130626