気になっていた忍たまに恋人がいた事が発覚した。


まだ好きとまではいってなかったし、大丈夫。淡い想いはすぐに心の奥に閉じ込めて、私はいつものように学級委員長委員会にちょっかいをかけに行く。



「よっ」



すると珍しく三郎だけが畳の上で寝転がっていた。皆は勘ちゃんのおやつ買いに行ったみたいで、遅刻した彼は留守番を任されたらしい。…要するにハミゴね。


可哀相な三郎くんの隣に座り、髪の毛をモフモフしていたら


「なに?」


三郎が私をじっと見つめてきた。



「…いや、何も」

「何それ。隠し事か、三郎のくせに。」



おりゃ、と三郎の顔目掛けて手を突き出す。勢いで雷蔵の面をとってやるつもりだったのに…くそぅ。手を掴まれ顔に触れることさえ出来なかった。



「ふっ、甘いな。」

「…いらっ」

「まぁそう怒るな」

「原因は三郎だ」




ぷい、と顔を横に向ける。ついでに触っていた三郎の髪の毛を思いっきり引っ張ってやった。


「いだだだっ!」

「ざまぁ」



予想以上に三郎が痛がったので、顔を向ければ



「残念」



にんまり、とむかつく笑顔。



「地毛じゃないから全然痛くない」

「……全部抜いてやる!!」



手当たり次第に髪を引っ張ると、はらはらと三郎の頭から抜けていく髪の毛。


三郎が慌てて私の手を掴み、動作を止めにかかったがもはや遅い。私の手には大量の毛束が。



「うわ、大量だ!やったね、三郎!」

「ああああ!せっかく雷蔵に似せて作ってたのに…!」

「でもなんかホラー…、返すよこれ」

「投げるなっ!ばらつくだろう!」



手に握られていた髪の毛を三郎目掛けて投げれば、ふぁさ、と広がりばらばらに畳に落ちる。それを懸命に拾い集める三郎の姿は何とも滑稽である。




「あはははは!あほだ、三郎っ」



三郎に指を指しながら声を出して笑う。



しかし、そんな失礼な私に三郎は優しい顔を見せた。





「……何、きもちわるい」

「いや。やっぱお前は笑ってた方がいいな、って思ったんだよ」



「…は?」



「嫌な事あってもさ、笑ってればいつか忘れるさ」



ぽん、と頭に手を置かれた。



…気付かれてたのか。淡い気持ちは心の奥に隠してたはずなのに。



じっと三郎を見てれば頭にあった手が降りてきて、頬っぺたを摘ままれた。


「むっ」

「変な顔しているぞ」

「だれのせいひゃ!」



今度は鼻を摘まれる。



「ふんぬっ」

「ぶっ!今の何?」



そして一人笑いだす彼。失礼極まりない。



反撃とばかりにまた彼の髪の毛を掴めば、慌てて阻止しようとする。その必死さが私のつぼにハマり、また笑いがこみあげる。



「あはははははっ」

「髪の毛を離せっ」

「ははは!」




可哀相なので手を離すと、すぐに私と距離をとる三郎。あ、今傷ついたよ私。



「嘘つけ、顔が笑ってんだよ」

「だってさ」



今度は私がにんまり、とした顔をしているに違いない。




「三郎といると楽しいなって、思って」




嫌な事なんかすぐ吹きとんでしまう。多分、彼がそうしてくれているんだろう。




「…何だそれ」

「あ、もしかして照れてんの?」

「私は照れなどしない」

「三郎可愛い(笑)」

「むかつく」




三郎はつかつかと私に歩みよると、私の耳元に顔を寄せた。



そして、ぼそっと小声で話す。


「…あんな忍たまより私の方がなまえに相応しいと思ってるんだけど」

「……え、」



それはどういう意味…?と聞き返す前に、三郎は私を抱きしめた。そしてまた、耳元で囁く。



「…私、なまえが好きなんだけど知ってた?」




顔が耳元から離れ、お互いの顔が見えるようになると三郎はあの憎たらしい顔をしてみせた。



「なまえ、顔真っ赤。照れてんの?」




嬉しそうににやける彼にとりあえず暴言をはいておいた。





ただ、びっくりしただけよ
(…心臓の音がなりやまないじゃんか)