成歩堂なんでも事務所 お正月編 5

内容は間違っていないが、普段が職務怠慢の成歩堂さんに言われたのがカチンときたのだろう。かなりムッとした表情で言い返す牙琉検事。
そうして、2人の間に見えない火花が飛び交うさなか。

「ほーんと、先に見つけておいてくれればねー。じゃらじゃら検事に、元日から呼び出されて「身内の年賀状を鑑定しろ」なんて言われなかったのに。コンサートの時といい、アタシをなんだと思ってんのよっ」

成歩堂さん達につられたのか、茜さんまでイライラし始めてしまった。

「…………」
「…………」
「…………」

腕組みして黙りこむ成歩堂さん。
面白くなさそうに前髪をいじる牙琉検事。
さらに、面白くなさそうに手袋を引き剥がす茜さん。
茜さんは、手袋をカバンにつっこむと同時にカリントウを取り出し、次々に口に放り込んでゆく。
サクサクサクサクサクサクサク……。
静かになった事務所に、カリントウをかじる音だけが響き、重苦しい雰囲気が漂いはじめる。
なんだ、なんだ?正月から、この険悪なムードは!??
みぬきちゃんを見ると、成歩堂さんと牙琉検事とのどちらに付いていいやらでオロオロしている。
……よし!ここはオレがなんとかしないと!!
オレは、気合を入れて茜さんに姿勢を正し向きなおした。

「い、いやっ!でも茜さんがいてくれたから、アトロキニーネが発見できたんですし……オレの命の恩人ですよ!それにしても、オレが『成歩堂なんでも事務所』にいるってよく分かりましたねっ!!」
「え?」

不意を突かれて、きょとんとした表情の茜さん。そして、同時に聞こえてきた牙琉検事の小さな、ため息。

「……オデコ君。そのセリフは、むしろぼくに言うべきだと思わないかい?」

くすくす笑うみぬきちゃんに、声には出でていないけど面白がってる成歩堂さん。
お、なごんだ。
別にボケたワケではなく、本気で茜さんに言ったんだけど……まぁいいか。

「あ……。そうですね、牙琉検事にもお礼を言わないと」

しかし、牙琉検事は爽やかな顔で「いいよ、気にしないで」と手を振る。
おぉ、いい人だ!
わずかながらだが、牙琉検事への好感度が上がりそうになる。しかし、次のセリフで好感度の上昇はピタリと止まった。

「別にキミを探してここに来たワケじゃないしね」
「へ?」
「万が一、お嬢ちゃんの家にも届いていたら大変だと思って、駆けつけただけさ。オデコ君が居合わせたのは偶然。ついで、というかオマケかな?」

その言葉に「きゃー!」と嬉しそうな悲鳴を上げるみぬきちゃん。
それを見て、「ウチには来なかったよ、牙琉から。さすがに、怪しすぎるからね」と苦笑いする成歩堂さん。
え。ちょっと待ってくれ、それじゃ……

「お、オレのトコロは、どうするつもりだったんですか!?」

もしもココに来ていなかったら、いまだ手元の毒物には気付いてはいないだろう。

「ん?オデコ君には、あとから電話連絡しておけばいいかな、って」
「ま、待ったぁーーーーーー!!!」
「ウルサイっ!!」

……コツン!

危機一髪だったことに加えて、牙琉検事のテキトーさに絶叫するオレに茜さんのカリントウのツッコミが入った。

「いや、だって茜さん!オレを見殺しにつもりだったんですよ、牙琉検事!」

カリントウがぶつかったオデコをさすりながら訴えたが、茜さんは涼しい顔だ。

「確かにアトロキニーネは猛毒だけど、経口摂取で発現……ようは、口の中に入ってこそ毒になるってことね。触れただけじゃ害はないし、仮に手から間接的にアンタの口に入ったとしても、死に至るには遠くおよばない量よ。ハガキを直接なめれば別だけどね。だから普通に扱う程度じゃ、死にはしないの」
「そ、そうなんですか?」

そうか。毒に気付かず、そのまま自宅にいても大丈夫だったのか。

「毒にあたっても、せいぜい一日寝込むぐらいよ」
「今、サラッと恐ろしいコトを付け足しませんでしたか?」

ぜんぜん、大丈夫じゃない。

「まー、そんなワケで大したことない事件を、このジャラジャラした検事が大騒ぎしただけ。いいメーワクよねー。サクサクサク……」

「どうでもいいコトに付き合わされた」とカリントウをかじる茜さん。
いや、十分にオオゴトだと思うけどな……。
まぁ、とりあえず命の危機の心配は無かったらしい。

……しかし。
そうなると、また一つの疑問が浮かんでくる。

 年賀状に塗られた『アトロキニーネ』では、人は殺せない。

口に入ったトコロで死ぬわけじゃない。
そもそも、口に入るかどうかも怪しい毒物に、意味なんてあるのだろうか?
オレは、すでにビニール袋に包まれたオレ宛の年賀状を取り上げた。

「……なんでこんなモノ送ってきたんだろ?先生」

確かにオレは殺意を抱かれていてもおかしくない。でも『凶器』というには、これは不完全すぎる。……それは、送った本人がよく分かっているハズなのに。
完璧を求めた人間が、こんなミスを犯すのだろうか?

「挑戦状なのかもね」
「え……」

牙琉検事がヒョイとのぞき込んで、オレの独り言に返事を返す。

「または予告状?」

不敵な笑みをうかべる検事。

「毒が発見されるのを見越した上でさ。『必ず復讐してやるから、クビ洗って待ってろ』っていう、ぼくたちへの戦線布告」
「ハ、ハハハ……まさか。冗談、ですよね?」
「本気だよ。アニキならやりかねない」

……確かに、やりかねない……か?
そう思った瞬間、ゾゾッ…と背筋に冷たいものが走るのを感じた。

「受けて立とうじゃないか。ねぇ、オデコ君」
「お、お、オ、オレはイヤですよ!牙琉検事1人で頑張ってください!!」
「オドロキさん、ヒドいっ!ガリュウ検事に押し付けるなんて!!むしろ、オドロキさん1人で頑張りましょう!!!」
「ムチャいうなっ!!!!」

酷いと言われようが、ムリなものは無理。
もう、正月から泣きたい気分だよ……。
そうして、ガックリと肩を落とすオレに成歩堂さんの声がかかった。

「大丈夫、僕の一番弟子のキミだ。なんとかなるよ、オドロキ君」
「……成歩堂さん」

オレはいつのまに成歩堂さんの弟子に?とは思ったが、あの成歩堂 龍一の『一番弟子』と言われて、急にテンションが上がってきた。
うん。なんとかなる!……ような気がしてきたぞ!

「頑張ってね。かなり牙琉の恨みを買っちゃっているであろう、僕の分まで」
「はい、がんばり……って何で、成歩堂さんの分まで背負わなきゃいけないんですか!?」
「ほら。言うじゃないか『師匠の因果が、弟子に報い』ってさ」
「言いませんよっ!!!」

それは『親の因果が、子に報い』だ。
結局、厄介ごとを丸投げしたくて『一番弟子』と言っただけか。
上がったテンションが元に戻り、再び肩を落とす。……もうヤダ。

「しかし、すごいねオドロキ君。唯一、マトモだと思ってた年賀状が猛毒まみれだったとは」
「………そうなりますねー」

肩を落としたまま、かなり投げやりに答えるオレ。そこへ、茜さんが口を挟む。

「あら。アタシのはマトモだったでしょ?それにしても、アタシの他にマトモな年賀状送ってくる友達いなかったのアンタ?」
「いや、茜さんの年賀状はマトモとは……。それに、友達はメール……」
「オドロキさん!友達がいなくても、オドロキさんにはみぬきがいるから大丈夫ですよっ!!」
「え!?みぬきちゃん!??ちょっと、待っ……」
「あ……オデコ君、友達いないんだ……。よかったら何人か紹介しようか?」
「待ったーーー!!!」

哀れみの目を向けてくる牙琉検事に、「よろしくお願いします!」と、勝手に頼んでるみぬきちゃん。「お茶くらい出しなさいよー。サクサクサク……」いつの間にかくつろいでいる茜さんに、「ハッハッハッ。頑張ってね、オドロキ君」と、完全に他人事のような成歩堂さん。……ついでに毒付き年賀状を送ってきた牙琉先生。
あーもー、みんなまとめて……

「異議ありっ!!!」

……そうして今年初、全力で叫ぶオレの「異議あり」が事務所にこだましたのであった。






……
来年のことを言うと鬼が笑うっていうけれど。
願わくば、次は静かな正月でありますように……



2008年1月13日 UP
20012年12月25日 再UP


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