成歩堂なんでも事務所 お正月編 4

大量の?マークをアタマに浮かべたまま、言われたとおりに丁寧に爪の先まで洗い、蛇口を洗ってから水を止める。そして、手を拭きながら所長室に戻ろうとすると、入り口から何事かを話している牙琉検事と成歩堂さんが見えた。

「戻ってきたわねー」

入ってくるオレに気付いた茜さん。
手にはいつものかりんとうではなく白い手袋にビニール袋だったけど、表情はいつもと変わらず。フキゲンそうに頬をふくらませている。

「あ、あけましておめでとうございマス」

さっきは突然のことで言えなかったが、ここはちゃんと挨拶をしておかないとな。
そして、茜さんからも同じあいさつが返ってくると思いきや……

「おめでたくもなんとも無いわよっ!新年早々、ジャラジャラした検事に呼びだされるし、連れまわされるし、しかも理由が身内の年賀状!?って……あーもー!!!」

コツン!コツン!!
新年のあいさつにさえ腹が立つぐらい、茜さんは怒っているようだった。わざわざカバンの中から、かりんとうを取り出しぶつけてくる。
まったくワケが分からない。が、……どうも怒りの原因に牙琉検事と年賀状が関係しているらしい。

「ちょ、痛!かりんとうぶつけないでくださいよ!!年賀状が一体どうしたんですか?」
「そうよ、年賀状のせいよ!」
「え、えぇ。それがなにか……?さっきは、オレがまるで毒にでも触ったかのような騒ぎでしたけど」

その言葉にこちらを振り向く牙琉検事。眉間にややシワを寄せた、険しい顔でオレを見ると思いもかけないことを口にした。

「その通りなんだよ、オデコ君」

…………は?

「ぼくにも届いたんだ、アニキからの年賀状。それから毒物反応が出たんだよ。他にも同じモノがあるかもしれないって、急いでここに来たら……」

「ビンゴ!」と牙琉検事は手袋をはめた手で、先生の字でオレの住所が書かれた年賀状を自分の顔の横へと持ち上げた。

「毒物ぅぅ??」
「今、それを成歩堂サンに説明していたトコロ。申し訳ないね、緊急だったからさ。事務所に勝手に上がらせてもらったよ」

微笑んで「驚かせてゴメンネ、お嬢ちゃん」という検事に「ガリュウ検事なら、いつでも大歓迎ですから!!!」と、みぬきちゃんは頬を真っ赤にする。
理由を説明してもらったものの、オレは何かが引っかかる感じがして人差し指をオデコにつけた。
……先生からの年賀状に毒物反応?
それならば、血相変えて飛び込んできた牙琉検事も、大騒ぎする茜さんの行動にも説明はつく。けど……

「本当に……毒物だったんですか?」

一つだけ、納得いかないことがあった。

「ちょっとぉ。アタシが間違えるワケ……」
「どうして、そう思うんだい?」

オレの言葉に、今にもカリントウを投げつけそうな茜さんをさえぎって、牙琉検事が聞き返してくる。

「毒物が出たというコトは、どこかでそれを手に入れなければなりません。
しかし先生は現在、刑に服している。毒の入手は、内部からも外部からも刑務所では不可能です!」

一息で言い切って「どうだ」と胸をはる。
そうなのだ。
刑務所では小包の受け取りはできず、第3者からの差し入れもチェックが入る。よって、毒の入手は不可能。
先生から届いた年賀状も変わったトコロといえば、ハガキの全面に塗られたニスのようなものだけ。それも、ここに来る数時間前にハガキと共に触っているが、これといって手や指にも変化はない。だから、毒というのは牙琉検事たちの勘違いだと思ったのだが……。
しかし。毒物の可能性を否定されたというのに、目の前の牙琉検事に揺らぐそぶりは全く見えない。

「正論だね、オデコ君。……でもね、キミは一つ見逃している」

え。なにか忘れてたか?オレ。

「毒物は、新たに入手したんじゃなく、はじめから存在したんだ。存在したというか、もっと前に持ち込まれていた」

……気付かれずに持ち込まれていた、毒?
答えが出ずに、うなるオレを見て牙琉検事が口を開いた。

「それはね……」
「『アトロキニーネ』」
「成歩堂さん!?」

答えが予想外の声で聞こえて来たのにビックリして、思わずそちらに顔を向ける。

「……まだアンタに、毒の種類までは説明してなかったんだけどな」

不服そうな牙琉検事の声を聞く限り、どうやら成歩堂さんは正解を言い当てたらしい。

「牙琉が送ってきたってのと、一緒に宝月刑事を連れてきたからね。なんとなく、想像がつくさ」

成歩堂さん、すげぇ。
さすが、伝説の元弁護士。現役を離れたとはいえ、まだ腕は鈍っていないようだ。

「『アトロキニーネ』、かぁ」

何年も毒性を保ちつづけ、極めて少量の摂取で死に至る『遅効性の毒薬』。
3ヶ月ほど前に起きた殺人事件の凶器でもあり、巧妙に切手とマニキュアに仕込まれた毒は、すぐには出所を特定できなかった。結局、2つとも牙琉先生が用意していたもので……

「……ということは、あの年賀状に塗られていたのは……」

嫌な予感と共にオデコに汗がにじんでくる。

「うん。アニキが持ち込んでいた『アトロキニーネ』入りのマニキュアだよ。……ハイ、刑事クン」

牙琉検事から年賀状を受け取った茜さんは、カバンから見覚えのあるスプレーを取り出し吹きつけた。そう、確かあれは、茜さん特製のアトロキニーネ検出薬だ。
そして「みてなさいよ」と妙にイキイキした顔で茜さんは、年賀状をビニール袋に突っ込みテーブルへ置いたのだった。









「見事に光ってますねー」

再びテーブルに戻された年賀状。
覗き込むみぬきちゃんの言葉どおりに、青白い毒物反応が年賀状一面に出ていた。

「で、こっちがぼくに届いたヤツ」

牙琉検事の手で、もう一つビニール袋に包まれた年賀状が並べて置かれる。……これもまた、同じ淡い光を発していた。

「本当に……『アトロキニーネ』が塗られているんだ……」
「差出人がアニキからって気付いた時にイヤな予感がしてさ。すぐに刑事クンを呼び出して検査したら、予感が的中していたってワケ」
「みぬき、危うく触っちゃうトコロだったんですねー」
「……オレ。メチャクチャ触ってました、年賀状……」
「だから、手を洗って来いって言ったのよ。アタシ」

ワイワイと各自が勝手なコトを言い合う中で、「あのねぇ」と成歩堂さんが割り込んできた。

「被害が出なかったのは、良かったケドさ。そもそも、あの事件の後に牙琉の独房を捜査しておけば、毒物なんて送られてこなかったんじゃない?これは、検察の職務怠慢といえるんじゃないのかなぁ」
「……毒は事件のもっと以前、服役前に用意されていたモノだったんだ。まさか、私物にも毒を仕込んで持ち込んでいたとは思わなくてね」


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