成歩堂なんでも事務所 お正月編 3

〜〜〜♪
押えた音量で流れてくる『恋するギターのセレナード』。
そして……

『新年、あけましておめでとう。いま、コレを聞いているキミは何をしているのかな?直にキミの耳にささやけないのは残念だけど、いつでもぼくは心の中に……

ブツッ!!

気が付くと、オレはラジカセの停止ボタンに手を伸ばしていた。
同じ気持ちだったのだろう。成歩堂さんもコンセントからプラグを引っこ抜くところだった。

「ふたりとも何するんですか!?まだメッセージ終わってないのに!」
「み、みぬき。ちょっとパパには耐えられないというか……」

成歩堂さん、気分が悪そうにゼーゼーいってる。

「う、うん。牙琉検事の『新年あけましておめでとう』が聞けたからオレたちは、もういいよ」
「……そうですか?」

不満そうにしつつも「じゃあ片付けますね」と、みぬきちゃんは隣の部屋へと消えていった。
そして、みぬきちゃんが居なくなったのを見計らうと、隣に聞こえないように小声で

「オドロキ君、どうするのこのCD」
「帰ったら叩き割ろうと思います」

男2人で「聞かなかったことにしよう」と情けない誓いを立てたのだった……。





――それから、数分後。
ラジカセを片付けたみぬきちゃんが戻ってきた。またオレの隣にやってきて、ストンと腰掛ける。

「ええーと……みぬきに、パパに、茜さんで3枚。それにガリュウ検事のCDでしょ?たしか、もう1枚年賀状がありましたけど……誰からですか?」

オレに届いた郵便物は全部で5通。確かに、あと1枚年賀状が届いている。しかし……。
横を見れば、興味津々といった様子のみぬきちゃん。
……うーん、まぁ見せても問題ないよな。
そう判断して、オレはテーブルのスミに置いてあった年賀状へと手を伸ばした。

「牙琉先生からだよ。オレに届いた唯一マトモな年賀状」

いまだにクセが抜けず先生と言ってしまう、牙琉霧人 元弁護士から届いたもの。
手書きの『あけましておめでとう』と短いメッセージ。文字と文面からは、几帳面そうな性格がにじみ出ていた。
裏面はなんてことない年賀状だが、ひっくり返して差出人の住所を見ると……何とも複雑な気持ちになる。

「しかし、唯一のマトモな年賀状が刑務所からとはね」

こちらも複雑な表情の成歩堂さん。

「……成歩堂さんたちが、普通に書いてくれたらこうはなりませんでした」

さらに「グレープジュース色がナニをいう」とツッコミ返したが、オレの声のトーンは明らかに下がっていた。……割り切れたと思ってたんだけどなぁ。

「先生からの……」

みぬきちゃんも深刻そうな顔をしてつぶやく。

「ごめんなさい、オドロキさん」
「い、いやっ!みぬきちゃんが、あやまるコトじゃ!!」
「みぬき、さすがにパンツから友達は出せないから……」
「へっ?」
「でも、オドロキさんも努力をしないと!マトモな年賀状のやりとりが出来る友達づくり!!」

そっちかよ!

「なんですか?ヘンな顔して」
「……別に」

なんか、どーでもよくなってきた気がする。
みぬきちゃんのボケで、沈んでいた気持ちはドコかへいってしまった。

「弟に友達ができないなんて、姉として心配です。……って、あれ?オドロキさんの持っている年賀状、なんだか光ってますね」
「ダレが……ちょっと、みぬきちゃん!!??」

ダレが弟だ。
と、ツッコミを入れようとしたオレに、みぬきちゃんが急に顔を近づけてきたものだから、ビックリして持っていた年賀状を落としてしまった。
「あけましておめでとう」と書かれた年賀状は、ヒラヒラと落下してテーブルに着地する瞬間にキラリと蛍光灯の光を反射した。

「ニス……か何かがぬってあるのかな?でも、どうして?」
「うーん、汚れ防止じゃないかな」

もしくは、雨水防止。
この年賀状のツルツルとした感触に最初は驚いたけど、先生がキレイ好きだったことを思い出して、特に疑問には思わなかった。

「よく見せてもらえませんか?」

と、みぬきちゃんが年賀状へと手を伸ばしたそのとき……

「STOP!それに触れないで!!」

!???
突如、所長室にいるはずのない人物の声が響き渡った。
あまりに突然の出来事にビックリして、オレたち3人は言葉どおりピタリと動きを止める。


……1拍おいて、首だけを声のしたほうへ向けると、

「牙琉検事!?」

さきほど、みぬきちゃんがラジカセを片付けたときに開け放したままだった戸口。そこに、険しい顔をした牙琉響也検事が立っていた。

「え、牙琉検事がどうして?いつのまに!?」

なんだ、何だ、何事なんだ!??
うろたえるオレの質問は無視したまま、ツカツカとこちらへ向かってくる検事。

「そう、お嬢ちゃん。それに触らないように手をどけて」

先程とは打って変わって、みぬきちゃんに優しく手を戻すようにうながす。
言われたとおりに手を引っ込めたものの、事態がうまく飲み込めていないみぬきちゃん。「あの……」と口を開く前に、牙琉検事の次の声が響いていた。

「あったよ刑事クン」

刑事クン……?
声を掛けられたほうを見れば、フキゲンそうに宝月 茜刑事が部屋に入ってくるトコロだった。

「茜さんまで何でココに!?」

しかし、茜さんにもオレの質問は無視され、

「この年賀状に触ったのはアンタだけ?じゃあ、とっとと手を洗ってきて!手首から爪の先までキッチリとね。途中、ドコにも触らないようにするのよ」
「あの……どうなっているのか、説明を……」
「ウダウダ言ってないでさっさと行く!!水を止める前に蛇口も洗うのよ!!!」

すごい剣幕の茜さんに所長室を追い出され、オレは仕方なく給湯室へと手を洗いにいった。

「まったく、一体なんだってんだ?」


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