成歩堂なんでも事務所 お正月編 2

「あ……」

灰色の粉の下から現れたのは、白い『あけましておめでとう』の文字。

「こういうコトか」

えへへ。と、得意げに笑うみぬきちゃん。

「インクの出ないボールペンで、軽くヘコみをつけておいたんです。あぶり出しでもよかったんですが、オドロキさんの部屋にコンロがなかった場合を考えてコレに」
「そうなんだ……って、いくらなんでも自宅にガスコンロくらいはあるからな」

どんな生活だと思われているんだ、オレは。

「でも男の一人暮らしって、キッチンには『冷蔵庫』と『電子レンジ』と『ポット』だけってイメージじゃないですか」
「どこで覚えてきたんだ、そんなの!?」
「いやー、みぬきが来た当初はそうだったよねぇ。僕の部屋」
「って、成歩堂さんアンタかー!」

はっはっはっ…とワザとらしく笑う成歩堂さん。なんか、ドッと疲れが出てきた……。

「もー、みんな普通に書けばいいだろー」
「ほら、みぬきマジシャンだから!」
「僕、ピアニストだから」
「ピアニストは関係ないでしょうがぁぁ!成歩堂さんは、ただの不精者!!………はぁ。マジシャンでもない茜さんも真っ白な年賀状を送ってくるしさぁ……」

実は、成歩堂親子の2枚以外にもまだ不可解な年賀状が届いていた。
家を出る際、今日届いた郵便物を全て持ってきたので、茜さんからの年賀状も手元にある。
オレは、その茜さんからの真っ白としか言いようがない年賀状を、明かりに透かすようにして持ち上げてみた。……何度見ても、やっぱり白い。

「オドロキさんのトコにも来たんですねー。ウチにも届いたんですよ、アカネさんからの年賀状」
「やっぱり、みぬきちゃんと同じでこすって出すヤツだった?これも火であぶってみたけど、何もでなくてさ」

だから茜さんからの年賀状は、みぬきちゃんのと同様に端がコゲている。
テーブルに戻して「えんぴつ貸して」とみぬきちゃんに頼むと、成歩堂さんが

「いやいやいや。彼女はカガク捜査官……を目指した刑事さんだから、ね。……うーん、でもコレはここに来ないと見れないよなぁ……」

とか、なんとかブツブツ言いだした。

「ここじゃないと見れない……?」

あぶり出しでもなく、こすり出し(っていうのか?)でもない年賀状?
何のことだかサッパリ見当がつかなくて、困惑するオレに

「コレです。オドロキさん」

みぬきちゃんが鉛筆の代わりに、見覚えのあるメガネとスプレーを手渡してくれた。
……これは、いつぞやお世話になった『ルミノール試薬』とピンク色のメガネ!
ためしに、メガネをかけて試薬を年賀状に吹き付けてみる。すると……

「謹賀、新年……」

青白く、ややぼんやりとした新年のあいさつが浮かび上がってきたのだった。

「ハハハ、ある意味彼女らしい年賀状だよね」
「いや、コレ、血液に反応するんですよね!??」

成歩堂さんはほがらかに笑うが、正直オレは全く笑えない。
……本当にコレ、何を塗ったのだろう……。
冷や汗をかいて固まるオレ。それをよそに、成歩堂さんは珍しそうにテーブルの上の郵便物を物色し始めた。

「年賀状の他に封書もあるね」

その言葉で固まっていたオレは我に返る。とりあえず、メガネを外して……

「あ、ああ……オレ急いで来たものだから、今日届いたものを全部持ってきちゃって」
「これで全部って……みぬき達のを含めても5通しかないですよ!?」

みぬきちゃんに、かなりビックリした表情をされたあと

「オドロキさん、友達いないんですね……」

カワイソウな子犬でも見るかのような目で見つめられてしまった。

「ち、違うって!!友達はみんなメール派なんだよ!」

しかし、信じてもらえず「……そういうことにしてあげよう。みぬき」と成歩堂さんにまで哀しげな笑顔を向けられてしまった。……本当なのに。

「でさ、この封書は何なのかな?」

哀しげな表情のまま、話を変えようとする成歩堂さん。

「だーかーらー、友達はメール派なんですよー。……ってコレは、牙琉検事からですよ」
「ふーん。見てもいいかな?」
「あっ、それ……」

オレの返事を待たずに、成歩堂さんは既に開封されていた封筒へと手をつっこむ。

「…………」

そして、取り出した中身を前に絶句して硬直する成歩堂さん。

「あー。やっぱり固まりますよね」

その手にあるのは、1枚の音楽用コンパクトディスク……いわゆるCDだった。
もちろん普通のCDではなく、牙琉検事の顔がアップで印刷された破壊力バツグンのシロモノ。……しかもこれがまた、腹が立つほどイイ笑顔をしているんだ。

「オレ思わず、その場で割ろうとしましたもん」
「そ、そのワリには無傷みたいだけど」

成歩堂さん、まだ顔がひきつってる。

「いやー、正月から『割る』のは縁起悪いかなーって」
「……そうだね。それで中身は聞いたの?」
「いえ。聞かずに正月過ぎたら処分する気です。部屋に置いておくのも何か嫌なので」
「そこまで言われると、さすがに牙琉検事が気の毒な気がするね」

と言いながらも「でも気持ちはわかる」と付け加える成歩堂さん。

「捨てる時は、燃えるゴミでいいんでしたよね?」
「それよりも売ってお金にしたら?」
「買う人いますかねー」
「ウチのみぬきは喜んで買いそうだけどね」

そうして、CDの処分方法を2人で話し合って……ん?2人?

「……そういえばみぬきちゃんは?」
「いままで、そこにいたハズだけど」

あと1人、いるはずの人物の姿が見えない。
どこだ?と、首を回し辺りを探すと……

「もー、ガリュウ検事がせっかく送ってくれたのに、何を言ってるんですか!捨てずにちゃんと聞いてあげてください!!」

突然、怒ったような大声が部屋にひびいた。
みれば、入り口にみぬきちゃんが憤慨した様子で立っている。そして、その手には牙琉検事の顔が印刷されたCDとラジカセ。

「あれ、同じCD……?」

オレに送られてきたCDは、まだ成歩堂さんが持っている。じゃあ、みぬきちゃんが持っているやつは……

「これ『ガリューウェーブ』ファンクラブ会員に送られてくるCDなんです」

ラジカセにCDをセットしながら「みぬきはファンクラブ専用の封筒でしたけど」と、みぬきちゃんが説明してくれた。
……ということは。牙琉検事は年賀状代わりに、オレにもファンクラブの余ったCDを送りつけてきたってことか。

「あー、そういえばみぬきに似たような封筒が届いていたなぁ」

オレに届いたほうのCDをそっと封筒に戻しながら、ボソッとつぶやく成歩堂さん。

「中身がCDだったとはね」
「1曲目はギターで演奏する『春の海』で、2曲目は『恋するギターのセレナード』をバックにガリュウ検事が新年のあいさつをしてくれるんです」

おいおい……明らかにギターで弾く曲じゃないだろう『春の海』。

「だーかーら、新年のあいさつだけは聞いてあげてくださいね」

首をひねるオレをよそに、みぬきちゃんは楽しげにラジカセの再生ボタンを押したのだった。


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