成歩堂なんでも事務所 昔話編 2


オレは、テーブルの上のきびだんごの箱を掴む。

「食料じゃなくて、家来として鬼ヶ島に行くんだよ!ほら、コレ!」

包装紙に印刷された、『日本一の旗を掲げた桃太郎と三匹が一列に並んだ絵』をみぬきちゃんへと突きつける。
……そうか。包装紙にザルそばやイクラ丼じゃなくて、動物が描いてあるからみぬきちゃんは「おかしい」と、思ったのか。
しかし。おかしいのはこの場合、どう考えても彼女が知っている『桃太郎』のほうだろ。

「そんな動物三匹なんて、役に立つのなぁ……?」
「役に立つんだよ、あとで」

とりあえず、話が噛み合わなかった原因が判明したな……。

「それから、桃太郎は……」
「あー、みぬきちゃんもういいよ」
「いいんですか?」
「うん。話のズレてるトコロも分かったし。あとは、鬼を退治してめでたしめでたし。だろ」
「たいじ……?」
「『鬼をやっつけて財宝を手に入れて幸せに暮らしましたとさ』……じゃないの?」

みぬきちゃんは、信じられないという顔をしている。ええ??もしかして……

「違いますよ!おばあさんのきびだんごの味に感動した鬼が桃太郎と、きびだんごのお店を開くんですよ!最終的に全国チェーン1264店舗!!」
「えええぇぇぇーーーー!???」

なんかすごいオチになってるーー!?

「ちょっと待て!ありえないだろ、それ!?」
「ありえないのは、オドロキさんのほうですよ!子供に聞かせるお話が、そんな非人道的なストーリーのハズがありません!!」
「いや、非人道的って……。鬼もその前に十分に暴れているから、退治されても仕方ないだろ」
「悪いことをしたからって、平等に弁解と更正の機会が与えられないと!問答無用に成敗していいなら、弁護士は必要ないですよ。それって、オドロキさんの存在価値も否定されることにもなりませんか?」
「弁護士は、桃太郎の時代の日本には居ないんだけど……」

まさか昔話で、オレの存在価値まで言及されるとは思ってもみなかった。
うーん。このまま、みぬきちゃんと話していてもラチがあかないな……。
みぬきちゃんが主張する『桃太郎』が間違っていると理解させるのは難しそうだ。
それどころか、話せば話すほどオレが知ってる『桃太郎』のほうが、間違ってるように思えてきてしまう。

「ところで、みぬきちゃん。その『桃太郎』は、誰に教えてもらったの?」
「ピアニストのほうのパパですけど」

……
…………。

「オドロキさん、複雑そうな顔してますねー」
「まともに昔話を知らなくても弁護士になれるんだなー、って思うとなんか……。っていうか、ムスメ相手に昔話をねつ造するなよ!」
「失礼だな。ねつ造したのは、アトにも先にもオドロキ君の初法廷だけだよ」
「うわあぁぁぁぁ!?」

急に頭上から成歩堂さんの声がしたものだから、驚いてテーブルにぶつかり湯呑茶碗を倒しそうになった。

「危ないなぁ。みぬき、今帰ったよ」
「おかえりなさい、パパ!」
「い、いつの間に!?成歩堂さん!???」

ソファの後ろに立っているのに、声をかけられるまで全く気がつかなかった。

「みぬきの「複雑そうな顔してますねー」辺りから。あ、オドロキ君。僕だって一般的な昔話くらいは知ってるんだから、言いがかりをつけないでほしいね」
「で、でも。実際にみぬきちゃんから、「成歩堂さんに教えてもらった」っていう変な『桃太郎』をいま聞かせてもらったトコロなんですよ!……内容がカッ飛びすぎてて、オレの中ではちょっとした事件です」
「『桃太郎』?」
「ほら、パパが教えてくれた『鬼といっしょに、きびだんごのお店をチェーン展開する桃太郎』のお話のコトだよ」
「そんなの教えたっけなぁ……」

うーん。と腕を組んで考え込む成歩堂さん。
あれ?成歩堂さんが情報源じゃなかったのか?

「覚えてないの?みぬきがパパと暮らし始めてすぐの頃に、「なにか、お話して」って頼んだら話してくれたじゃない。真っ赤になった顔とお酒くさい息で」
「……あぁ。あのときか」
「思い当たるフシがあるんですね……」

やはり原因は、成歩堂さんだったらしい。

「友人に『成歩堂をはげます会』とかいう名目で、しこたま飲まされたコトがあってね。よく覚えてないんだけど、酔っ払ってテキトーな『桃太郎』を話したような記憶があるような、ないような」
「成歩堂さん、昔話でも子供にウソ教えちゃダメですよ」

結果。
みぬきちゃんの言う『桃太郎』は、酔っ払いのたわ言だった。
これで、ようやくオレの話した『桃太郎』の方が正しいと立証できそうだ。
やれやれ。と、みぬきちゃんを見れば……彼女は暗い顔をしていた。

「そんな……。みぬきが、7年間信じていた『桃太郎』はニセモノだったんですね……」
「ごめんね。パパが悪かったよ」
「でも!みぬきはやっぱり、きびだんご屋の全国チェーン展開のほうがいいと思います!!」
「ガンコだね、みぬきちゃん……」

両手をグーにして、絶対みぬきの桃太郎のほうがいい!と主張するみぬきちゃん。
真実が明らかになったが、今後もみぬきちゃんの中では、桃太郎は鬼と仲良くきびだんご屋を経営しているのだろう……。

「……やっぱり、ねぇ。そういえば、さんざん飲まされたのはアイツのせいだったな……」
「アイツ?ダレのこと、パパ?」
「んー。『事件のカゲには、やっぱり矢張』って話だよ」

そう言って、へらりと笑う成歩堂さん。
なんのコトだか、サッパリ意味が分からないオレとみぬきちゃんは

「???」

と、2人で顔を見合せたのだった……。




後日。事務所には「酒はのんでも、のまれるな」の標語が貼られ (成歩堂さんは「もう時効だろ?」とバツの悪そうな顔をしていた)、みぬきちゃんの口からブラックジャックもびっくり!な外科手術が行われる『白雪姫』が出てくるのだが……。
それはまた、別のお話。



みぬき的 むかしばなし 〜終〜

2008年8月 UP
2012年12月25日 再UP

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