レンタル及川-01


この世は何でもレンタル出来る。CD、DVD、コミックスは当たり前のこと、車、自転車、着物、ドレス、傘……などなど。現代社会において何かを借りて使うというというのはごく自然に当たり前に行われていてそれらに気付き注目して見る人なんていない。そうしてまた新たに生まれたレンタルが“人”であることに社会は驚くしかなかったのだ。これまで自分達の身近にありながら全く関心のなかったことにふとした瞬間、とある偶然をきっかけとして気付いてしまったのだ。人は生活の繋がりで関わるものという概念が知り合いですら赤の他人を自分の彼女や彼氏といった関係者にしてしまうという簡単なものになってしまったために、その意味と必要性を道徳的立場なんて小学生でしか学ばないようなことで糾弾か好奇心で知ることとなった。
当たり前でなくとも常識的な、普通に生活している人であれば知っている事の中にきっちりレンタル彼氏・彼女は入ってしまった。変わりゆく社会の中でこのサービスはとても上手い具合に合ってあるものだと思うのだ。

紙を持って電話を持って30分。ひたすら並ぶ文字と数字を睨んで悩んで出した結果はよし、かけよう!というものだった。たまたま街で拾った紙には「彼氏・彼女貸し出します」とのことだった。巷で流行りのレンタル彼氏のことだとは一目で分かったがまさか借りようと思っている自分がいるとは、紙を拾った当時の私は想像も出来ないだろう。
それもそのはず、私には彼氏がいないが全く恋愛に興味がない。仕事一筋のつまらない女であることは重々承知している。だけど私はそれでも構わなかった。そもそも自分より劣った能力しか発揮しない男には興味がないし必要だとも思わない。周りの何人かは既に結婚か婚約していて世の幸せを存分に味わっている。その幸せが私の幸せのイコールにならないのだから私は哀しい人と呼ばれるのかもしれない。恋や愛が必要な人間もいれば必要のない人間だっている。そういうことだと思っていたが、それもまた、土曜の昼間にたまたま見たドラマが恋愛もので1本の電話から始まるというのだったからそういえばレンタル彼氏の電話番号が、と忘れかけの情報を思い出してしまった。そうしていざかけてみようとすると変に緊張が走ってしまって、借りると決まったわけでもないのに30分も睨めっこしていた。
その静寂(?)を破って私は今、電話をかけるのだ……。スマホに30分の間に何度も入れた番号を打ち込み、発信を押す。丁度スリーコールの後に、もしもしこちらレンタルboys&girlsです、と男の人の声がした。電話が通じたことにびくりとして、思わず肩まで伸びた自分の茶髪をくるくる指に巻き付ける。

「あの、レンタル彼氏の文字を見てお電話させていただきました……。」
「ありがとうございます。レンタルの彼氏をご所望ですか?」
「えっ、あ、はぁ、えーと、はい。」
「では準備させていただきます。お客様の氏名は?」
「名字名前です……。」
「では、名字様。どのような場面で彼氏をご使用になられますか。」

まるで機械のように淡々とされる質問に勢いでyesと言った私は嘘をつきながら答えていく。友人の結婚式で彼氏が必要で、仕事が出来そうな方、20代後半、背は高めで……と好みのタイプを聞かれているようだった。機械みたいな電話の相手は最後に言った。

「名字様には応用の効く社員をお送り致します。是非ご活用くださいませ。」
「活用?」

なんじゃそりゃと電話口で言うわけにもいかず、切れた電話を見つめた。一体これはどういうことになったのだろう。ちゃんと借りられたのか不安だ。というか借りて私は何をしようと思っていたのか、電話で嘘を吐いていたから全然覚えていない。溜息をついてソファに寝転がると悩みに悩んだ疲れもあってか睡魔が襲って来てそのまま意識は遠のいていった。


20161202 Shortより


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