Blue love 


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ぴよぴよと人を揶揄うように動くそれを引っこ抜いて、そこら辺の雑草と一緒に捨ててしまいたい。勿論それを抜くには死ぬ覚悟がいるというか、いっぺん死んでからじゃないと無理だ。死んでも無理かもしれないけど。鷲掴みにして根元から刈ることが叶わなくてもそれが短くなるなら構わない。刈ることも絶望的なら握ったまま宇宙の果てにはそれの付いている本体ごと飛ばしてやりたい。いや、本体を飛ばしたいのだ。本体が消し飛べばそれも同じように飛ぶだろう。それだけ爆炎の中、ぴよぴよ動いていたらそれこそホラーだ。それもそれの付いた本体も宇宙の塵となって、私の前から消えてくれたら何も問題がないのに。この煩わしい思いも一緒に持っていってくれて消えてくれたらいいのに。

「……すまん、名前。この事に関しちゃ俺が全面的に悪い。団長を止められなかった俺の責任だ。」
「いや阿伏兎のせいじゃないから。責任負うのも部下の仕事とか思わないでよ。責任は上司が取るものだし、最も責任は団長にあるわけだし。」

にっこり微笑むと、阿伏兎はたらーっと目線を横にズラした。ああもう社畜の癖というか、フォロー癖というか、そういうものが阿伏兎には昔からあるものだから彼はろくなことがないのだ。団長が来るきっかけになった鳳仙の旦那との初対面の時もカバーして怪我して、この間の鳳仙の旦那の交渉の時も場を納めて片腕をポンコツにした。加えてこの時は大事な部下を1人無くしたのだ。
今回は春雨に対抗する星(国家)を制圧し勢力下に置くという事だったのに、彼は戦いの本能の赴くまま、星を滅ぼした。組織に属する者としてどういう神経をしているかは分からないが、とりあえず最悪である。損害がいくらか……と勘定してはいけない、死にたくなる。
私達の上司の自由さと傍若無人ぷりは某海賊漫画の主人公船長とどっこいどっこいくらいだが、彼のタチ悪い所は理性的に働いている上で本能を動かしていることだ。つまり今自分がどういう状況にいるか、何をしようとしているか、その他諸々がどうなるかも、全て理解しているのに、自分の欲求の為という至極本能的なもので行動するのだ。某船長は本能のみだから周りが仕方ないなぁ……とかなるのだろうが、こっちはいや分かってんならやるなよ!と声を上げて言いたい。
しかしまあ、言ったら多分腕をポンコツにするだけではすまないだろうし、最悪の場合は死闘を申し込まれて死ぬ事になる。死ぬ事になる、というのは私達が圧倒的に彼より弱いからだ。止められるのは彼の家族(しかも恐らく宇宙最強の父親ではなく彼より現段階で弱いと思われる妹ちゃんの方、何気に優しい部分もあったりなかったり)で、私も阿伏兎と彼に振り回されるしか術を持っていない。ただ私には阿伏兎より強い武器を持っている。それは私が女という性別であり、彼からどうしてか特別扱いされているからだ。

「ただいま、名前。」
「……お帰りなさい、団長。」
「そんなに離れないでよ、別に俺の血じゃないし。」
「余計嫌です。知り合いですら嫌なのに知らん人とか本気で無理ですから。風呂入って来てください。」

医者のくせにねぇと笑う彼にゾッとする。背後には何もないのに獲物に飢えた獣がいるみたい。そして、捕食者であるソレはこちらをギラリとタイミングを見計らっている。さいあくだ。

「っ、なんですか!怪我してるんですか!」
「あー……やっぱり名前にはバレちゃうね?何でだろ、隠してんのになー。」

隠すつもりなんてこれっぽっちもない。あれだけ輝いている瞳、オーラを見て分からないやつがいたらぶん殴ってやりたい。どうしてそんなに分からないのかと。妹ちゃんの小さい時の苦労がよく分かる。この人が家族にいたら身がもたない。
戦場専門の医者である私は当然そこそこ戦える。夜兎だから、という前に鳳仙の旦那に拾われて徹底的に育てられたからだ。春雨歴は団長より長い。幼い頃には血の色しか知らなかったのに、アホ毛が入って来てから私の役目は終わった。未来が楽しみだと言われていたのに、彼の方が強い、それだけで私は旦那から落ちこぼれの烙印をもらったのだ。死にたいくらいショックだったがどうせなら奴より強いものを身につけてやろうと思い立ち、結果として奴の命を1番自由に出来る医者になった。初めは団長を殺そうとか野望を抱いていたがあまりの強さに呆れてやめた。こんな人に執着していると馬鹿みたいだから。
今日は脇腹と太腿をナイフ以外のもので刺されていたので消毒と包帯巻いて終了。“夜兎なら”放っておいてもオーケーなレベルで良かった。今この人に死なれたら困るのはもう私だけではない。それが酷く悲しく感じてしまうのは、気のせいにしておこう。

「今日はやっぱりお風呂はやめてください。温かい濡れタオルで体を拭く程度で。面倒なら阿伏兎にやらせてくださいね。この状態で風呂に入るのは逆に細菌入るんで。」
「そうやって細かく注意する名前も良いね。楽しいや。」
「はぁ、別に良いですけどっておい!」

団長の身体がぐらりと傾き、診察用のベッドに勢いよく落ちるのを渾身の力で抑えた。力の抜けた夜兎を支えるほど怪力でないからゆっくりと寝かせるように力を抜く。治療のために露わになった団長の肌から腕に伝わる体温は感じたことのないくらい高温だった。
ヘラヘラしていたが、まさか、毒盛られたとか。嫌な予感が頭をかすめ、断ち切るように頭を振ったが、やっぱりあの槍毒付きだったね、と本人からの自供が入ったので溜息をついた。

「なんで、そういうこと言わないんですか。医者は突然倒れられると困ります。」
「名前は言わなくても分かるでしょ?現にほら、俺の感じてる症状聞くだけで解毒剤も方法も分かる。」
「もし私の知らないものだったらどうします。貴方は多くを引っ張る大将なんですから死なれたら困るんです。」
「どんなことでも名前が気付くでしょ?」

寝転がって身動き取れない状況、毒も周り相当痛みも出ている、それなのに彼は笑っている。ポリシーだがなんだかそんなつまらないもの捨てて仕舞えば良いのに。苦しいなら苦しい、痛いなら痛いと言えばいいのに。そうしたら私が意地を張らず治せるのに。
キュゥっと細められた瞳から目を逸らし、彼に背を向けた瞬間、腕を引かれ私が彼を押し倒したような形になる。掴まれた腕はギリギリと悲鳴をあげ骨が軋む。顔を痛みに歪めると何処か満足げに笑った。

「……痛いんですね、麻酔打っときます。」
「ね、名前は何でも気付く。」

きっとこれは嵌められているのだろうけど、私だって本能に従う。夜兎の力に支配されたくなくて始めた勉強は考えていたよりずっと本能的なものを使った。理性的なのは考え方だけであとは自分の正直な部分がものを言う。戦いの時に笑みを絶やさないのが彼の理性と本能の狭間のクッション剤であって、そこが1番好きなのだから面倒くさい。
彼は私に笑って「何でも分かるね」というが、私も彼に笑って「何でも分かるね」と言うのだ。アホ毛は気持ちによってぴよぴよ動いてうざったらしいが、彼の愛嬌。戦場に真っ赤に染まって咲く凶暴なアホ毛が枯れないように水と栄養をあげるのが私の役目である。確かに真っ青な宇宙の果てで枯れて欲しいが、私の近くで私が枯らすのも悪くないと思う。
ただ育ち盛りのちっちゃな欲を恋と呼ぶかは賛否両論、あると思う。


宇宙の果てのBlue love!!


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20161103
だんちょ難しいけど好き!会話少ないぜ



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