サニーと人妻と藤四郎の兄弟
 


刀剣男士たちを入手する方法はいくつか存在する。
一つ目は本丸にある鍛冶場にて鍛刀を行う方法。
二つ目は出陣し敵を倒して手に入れる方法。この敵には検非違使たる第三の勢力も含まれる。検非違使は強い分希少価値の高い刀を落として行くから審神者は時折検非違使狩りに行こうぜ!と声をあげるのだ。
そして三つ目。定期的に行われる大阪城地下の攻略にて、入手すること。目標階数を到達すれば必ず貰えるご褒美が稀にあるのだから、皆血眼になって地下へ潜る。
サニーこと、私もそんな強欲な審神者の1人である。うむ。

「ってなわけで、大阪城地下攻略するから編成決めるからー。」
「ならば、是非とも私にお願い致します。あそこには弟達が……!」
「いち兄、ごめんね。もう編成決まってたわ。」
「お覚悟よろしいですな。」
「ごめんって!本当にごめん!ほら、君の弟は君の弟達が見つけてきてくれるからっ!」

いち兄こと一期一振は生粋のブラコンであることくらい周知の事実だが、改めて感じると狂気的である。弟のほとんどは短刀で相手の懐に入り確実に命を絶つ鋭い一面と、反面して訪れる身近な危険ゆえに折れやすく脆い一面とがあって、いち兄はそれをよく理解している。もちろん私もだ。誰だって短刀の凄さは知っている、ツンツンツンツンの蛍ちゃんも凄いよって確かに褒めるくらいだ。ま、会える弟に期待して腹が立つのもよく分かるが、今回はどうやらまた違う所で怒っているようだった。

「なぜ弟達ばかりなのですか!私や叔父上……打刀などで臨めば良いでしょう!」
「いやだから練度を上げないと折れる確率も上がるんだって、ね?」
「あんな不吉な場所の暗い所に弟達を送り込む気持ちなどなど……この身が百回折れることの何倍も辛いのですぞ!」
「百回折れられたら困るから!どんだけレベリングすりゃいいんだよ。つーか、暗い所は短刀の独壇場だし夜戦じゃねーし、第一折らせるか!」
「あの、いい加減作戦会議進めてもらえるかな。いち兄、大将。」

言い争いがヒートアップする前に止めたのは薬研だった。今回は信濃を隊長とし、平野、薬研、厚、骨喰、鯰尾の藤四郎メンバーで行くつもりで、ここには遠征中の脇差2人と信濃以外を呼んである。
50F到達で新たな刀剣男士、包丁藤四郎が手に入れられるという。大阪城地下には未だ我が本丸にはいない、博多藤四郎、後藤藤四郎という短刀もいるとか。藤四郎だらけの場所を他の刀剣で染めるわけにはいかない。それが今回の私の作戦のモットーである。

「にしてもなあ、大将。包丁は菓子と人妻好きだぜ。そう簡単にうまく行くかな。」
「そこんとこは大丈夫。藤四郎は皆嫁です。」
「……それ秋田とか五虎退に言うなよ。柄まで通すぞ。」

ぎらりと光った瞳は本物の目だったので、口角がひくっとなる。こう言うところが非常に短刀らしくないのだ。心臓に悪い。

「ごめん薬研。ふざけた。でもまあ兄弟が迎えに来てくれたら誰だって嬉しいでしょ。」
「僕も主君や兄弟に会えた時はとても嬉しかったです。何よりこうしておそばに居られるのですから。」
「ひらのっ、死ぬ、死ぬって。そういう優しいこと言わないでッ、たまにされると辛いくらい嬉しい!」
「……お覚悟!」
「いち兄!?主君!?」
「平野ほっとけ。ああいうのは発作だからすぐ治るしおさまる。」

薬研は大体私の扱い方を知っているから一挙一動に焦りがない。前は頭を心配してくれたり優しかったのに。驚いた表情の初々しさもない。可愛くないといえば嘘になるが、可愛げはない。

「とにかく!我が嫁である藤四郎達は人妻好きのいたいけなショタを連れて帰ること!小判付きも背伸びも持って帰れるならドンと来いよ。」
「主君の望みとあらば。」
「大将はわがままだな、まいいけどよっ。」
「常にそばに居て無茶に付き合うのが俺達短刀だ。包丁藤四郎は粟田口の名にかけてしっかり捕まえて来るぜ。」
「やっぱり嫁とか自分の兄弟の呼び方とか突っ込まないのね。」
「それは大将(主君)ですから。」

なるほど。短刀と言えど見た目がショタと言えど数百年以上生きて来た刀だ。動揺していない。
丁度遠征部隊が帰還したようで本丸の門が騒がしい。やる気に満ち溢れた3人は輝いている。それを号泣して見つめるいち兄は鬱陶しい。きっと嫌な思い出と記憶が一番に浮かぶ大阪城に彼は自分の弟を行かせたくないのだろう。反面して、救われたいと思っているのかもしれない。あの忌まわしい場所を繰り返し歴史改変から救うことできるなら、きっと誰よりも信頼している弟達に任せるのが良いのだろう。

「いってらっしゃい。」

いち兄行って来まーす!と元気な声がかかり、門をくぐり抜け時代を飛んだ。それを見守る兄の後ろ姿はただ同じ刀派、同じ人から作られた刀ではなく、ただの兄だった。


20161026

うちには小判好きも背伸びしたい子も来てません泣
人妻は絶対ゲットだぜ!今回は100F制覇したい