サニーは運が悪過ぎて腹立つ
 


蛍丸は悩んでいた。
自分のいる本丸にはたくさんの仲間がいる。粟田口の刀達は半数以上が揃っている。他の兄弟も揃った刀は多く、賑やかなことだ。
比べて自分の、来派の刀剣は蛍丸以外いない。三人しかいない来派のうち、太刀の明石国行はレア度が高い。そのため彼が来るのはもうしばらくしてからだろうと思っていた。しかし、もうひとりの愛染国俊は短刀でレア度は低い。なのにどうしてか来ないのだ。粟田口は全員揃いそうなほど来ているのにも関わらず。
蛍丸は自分の兄弟が来ないことを審神者のせいだと考えている。そもそも刀の入手率は審神者に左右される。蛍丸が審神者を責めるのも当然のことだ。

「…………何サボってるの?」
「ああ、ほたちゃん。昨日あれだけ出陣したから今日は皆ゆっくりしたいかなーって。」
「サニーがサボりたいだけでしょ。さっさと出陣させて。」
「うっ何も言えない自分が憎い……。」

疲れた様子でゴロゴロ寝転がっている審神者を小さな背丈で冷ややかに見下ろす蛍丸に可愛げは一切ない。

「……ねぇ、主。主の運が悪いのってやっぱり前の影響があるの。」

冗談抜きで言った蛍丸の一言に審神者はピクリと固まった。それは禁断の扉を開く言葉である。蛍丸はそれを分かっている上で審神者に問いかけた。どうしても、自分の大事な人たちが来ないわけを知りたかった。
それを大事な主のせいにしてでも。
審神者は起き上がると蛍丸の顔を見つめる。その瞳は酷く悲しそうだった。

「……ごめんね、蛍。」
「何が、」
「私はずっと、直接的に言わなかった。“向こう”にいた刀が今後私の元に来る可能性はほぼないって。」

指先に冷たいものが走った。来派の刀は今たった三人。前いたのは短刀の一振り。彼は、ほぼ来ない……。それは死刑宣告のようで、蛍丸は涙を大きく溜める。

「……だけどね、蛍丸。」
「なに……?」
「だからと言って来ないとは言ってないんだ。」

悲壮感に浸る蛍丸の前で審神者はニカっと笑った。
そして次の瞬間、

「おわっ!何、なんだ?」
「いいから、ここいればいいんだよ!ほら、お前の兄弟だろ。」

清光の非常に楽しそうな声と共に部屋に入って来たのは、赤い髪の見覚えのある人だった。
蛍丸はその人を確認すると、大きく目を見開き審神者を見た。

「あ、るじ……。」
「ごめんね、ほんとに。もうこの本丸出来て何ヶ月も経つのに、兄弟連れて来ること出来なくて。他の本丸に出陣して拾った短刀を片っ端から取り寄せてその中で彼を見つけた。」
「だから、そんなに疲れて……。」

本来なら出陣し、入手した刀はそれぞれの本丸のみ管理される仕組みで、譲渡など一切禁止だ。が、審神者はルール無視という形で知り合いの本丸から短刀ばかりを受け取り、顕現して目的の刀を捜していた。顕現には霊力・体力を使う。疲れていたのはそのせいだった。
ぼろぼろ泣く蛍丸と苦笑いを浮かべる審神者をただひとりよく分からず見つめる彼。彼こそ、短刀・愛染国俊。確かに来派の刀である。
蛍丸はきゅっと唇を噛み締めた後、うわーっと声をあげ審神者に抱きついた。

「ちょっ、えええ?先に兄弟じゃないの?ほら、愛染困ってるから!オロオロしてるから!」
「だって、だってー!!全然そんな雰囲気ないんだもん、主。どれだけ主のせいにしたって来ないってことは俺のせいなのかなぁって。早く言ってよー……。」
「えぇ……。まあ、いつも誉取ってる蛍にはとびきりのサプライズが必要かなと思いまして。審神者、頑張りました。」

さりげなく鼻水と涙を審神者の服につけてくることに関しては目をつぶろうと審神者は思った。ひと通り泣いた蛍丸に、ほら兄弟待ってるよと声をかける。のそのそと審神者の胸から出て、戸惑いの隠せていない愛染の方を向く。ほぼ同じ背丈の彼らはしばらく向かい合うと、愛染の方が腕を差し出し、蛍丸はその中に飛び込んでいった。

「なんか、悪いな。蛍。」
「いーよ別に。来てくれたならよかった。」

部屋の外で事の成り行きを見守っていた清光や薬研が入って来て、今日は歓迎会だなぁと笑う。ぎゅうっと存在を確かめるように抱きしめあった二人は離れると気恥ずかしそうに笑い合う。

「蛍、よかったね。兄弟のひとりは来て。」
「主……ありがと。」
「うわァキタァ、ほたちゃんの貴重なデレキタァ……。」
「なーんで、主が泣いてんの。」
「だって、清光……、ほたちゃんが、ほたちゃんが。」
「はぁ……。で、蛍丸。今の感想は?」
「主の胸って見た目以上にあるんだね。」
「……はっ?」

ツンデレ大太刀最強と機動最強+初期刀その他の、審神者の体(決して厭らしい意味ではないが文字だけ見るとそう見える)を巡っての戦いはこの日を境に始まるのであった……。戦いについては、また後ほど。