サニーの主命と憧れが愛しい
 


主命。
それは主人や主から命じられた事柄で、使命である。
へし切長谷部という刀剣男士にとっては主命は絶対であり、主人への愛でもあった。大抵の審神者と長谷部の関係性は主従関係の強いものとして止まるにも関わらず、この長谷部は少し違うところで止まっていた。

憧れである。


「主、ご用件はなんでしょう。」
「この書類に書かれている本を書庫から全部出して来て欲しいんだけど。主命です。」
「かしこまりました。主命とあらば。」

機動をフル活用して書庫に向かった長谷部に審神者は笑みを浮かべた。実はこの本を探し出す仕事は光忠に自分でやれと言われていたことだが、長谷部に一言いえば黙っていてくれるだろう。ニヤニヤと緩む頬を抑えて審神者はあと1週間後に締め切られる書類に向かった。

一方の長谷部は本丸の隅の方にある審神者の部屋から書庫までわずか数十秒も経たないうちに到着し、早速本探しを始めていた。主はああ見えて本の好きなために書庫は大量の本で溢れている。数にしておよそ200冊。政府から送られて来た本と主の本でもうすぐこの書庫は入れなくなりそうだ。長谷部は背表紙と書類を交互に見ながら、片付けを光忠辺りに頼もうと決めた。

1冊見つけると同じ分野の本が固まっているせいか、ほほ見つけることが出来た。残り数冊もそう時間はかからないだろう。
長谷部でさえこれほど簡単に見つかるのだからこの書庫によく出入りしている審神者ならより早く見つけられるだろう。しかしどうして彼女はそれをしないのか。長谷部には不思議でならなかったが、恐らく「面倒だから」と苦い顔で言われるに違いない。
主が現世で過ごしていた時間は17までだと聞く。現世での成人の年齢にも満たないまま、戦いに巻き込まれた彼女の心境を思うと長谷部は苦しい。

「あの方は、本当にだらけているわけではない……。ただそれがあまりに分からないほど、隠すのがお上手なだけ……。」

いつかの加州が言っていた言葉を呟くと誰もいない書庫に静かに響いた。この本丸に来てから“初め”は誤解も多かった。今いる半数がそうだろう。霊力から伝わるものと主本人から伝わるものが違いすぎて、信じられなかったのだ。しかし、“あの”出来事があってからというもの、この本丸の結束はかたくなった。確かな関係性を作ったのだ。

最後の1冊は「審神者になるための百のこと」と書かれた本だった。主はきっとこの本を何度も読まれたのだろう。背表紙は少しケバケバしていて色も落ちている。こういう隠しきれない努力が見えるところが彼女の魅力である。まあ……普段は本物のサボリ魔だが。口元を緩めはあ、と溜息をついた。
さて、また機動をフルに使い、主に本を届けるとしよう。たくさんの本を抱えた長谷部は主の喜ぶ顔を想像し笑った。

そうして本が審神者に運ばれたあと。
長谷部がうっかり光忠に書庫の片付けを提案したことにより、審神者のサボりがバレて怒られることになるのだが。そこにいた長谷部は可笑しそうに笑っていた。