昔あこがれた、ハリウッドスターのように。



01_女マダオ、はじめました。



大きいサイズのサングラスに、本物のキツネの毛を使ったファーコート。
手首には銀色に輝く腕時計をつけて、真っ赤なヒールをカツカツと鳴らして歩く。
足元には可愛い可愛い子猫ちゃんが、私にすりついてくる。

「にゃー」

………リアル子猫だけど。
はあ。溜息吐いて、子猫をしっしと手で払った。
だけど子猫は無愛想な顔してドシンと足元に座ったまま。

「あのね、悪いけどアンタに構ってるほど暇じゃないの私。来年までスケジュールはきつきつなのよ」

ほら見てよコレ。全部"生きる"って書いてあるでしょ。
小さな段ボール紙に黒いペンで、"生きる"とびっしり書かれている。書いたのは私。
まあ、こんなくだらない冗談をするほど一日中暇なわけで。
それもなんでこんな真昼間に、みたいな。

「あー……あのクソ野郎が落ちてたら踏み潰したのに」

数週間前の私はこんな所にいるなんて想像もしなかった。
子供がたくさんいる公園でベンチに横たわってボーッと周りを見ている光景はシュールなんだと思う。
見た目からも分かるように、私は本当にこの前まで"セレブ"や"金持ち"と言われる類の人にいたと思う。
超高層ビルの一角で一人暮らしをして、私が勤めていた会社の跡取りと付き合っていて、社長のトップ秘書として働く女性から憧れの的と言われ…。
満更じゃなかった。むしろ、自認していたくらいだ。

「あのクソジジーも落ちてたら踏み潰したい」

こんな、まるでダメな女になってしまったのは全て男共のせいだ。
付き合っていた男はキャバクラで金を使いまくり挙句の果てには一晩で10人もの相手を斬ったという。結婚の話も出たけどすぐに別れた。
だけどただ別れるだけではなかった。私が住んでいた場所はほぼ彼と同棲していた住処で…部屋を買い取ってくれたのは彼だったから、別れようと言った時に家から追い出されたのは言うまでもない。
行く宛てを失いながらも仕事は一生懸命した。漫喫でもカプセルホテルでもお金はたくさん持っていたから、住む場所がないことはなかった。
だけど毎日がセレブ生活の私には、コンビニ弁当やただのファストフードでは満足できなくなっていた。
ついつい、まだお金に余裕があるからと言っては料亭やバーに足を運んで高い飲食物に手を出してしまう。もはや病気だ。


精神的にもだんだんと苦痛が広がり続けた6日前、社長に相談を持ちかけてみた。契約先の跡取りと別れることは、すなわち自社のイメージが下がってしまうのではないのかと考え始めたからだ。
社長は私の予想通り怒り狂った。そのあとからが、問題だったんだ。


「あの、社長…?」
「は、ははは…君は何を……してくれたんだ!!!」
「きゃあ!?」

ガタガタッ

「もういい。あの方と交際していたから手は出さなかったが、フリーとなってはいいだろう!?」
「な、なにするんですかっ!!やめっ…」

ガシャンッガタッ

「綺麗な女だよ、お前は……」
「やめっ…てっ………って、言ってるでしょ!!!!!」

ガシャーーーン!



勢いあまって右側にあったツボで社長を殴り倒した。
昔聞いた時の話では1000万相当のツボ。そして頭から血を出して気絶した社長。
もう、人生が終わりを告げたことをその時理解した。



あれから私はすぐに会社にも顔を出さずに、自然とクビという形になった。
もうお金はパチンコで少し貯めた程度のものしかなくて、死にそうになりながら町を歩いている。
お金があった頃の私が、どれほど幸せ者で馬鹿者だったか今の私にはわかることができる。
人生に勝ち組も負け組もあるわけないわよね…やっぱり。






今日も今日とて公園生活。




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