(入学篇)

「…………うおし、」

鏡の前でぐっと拳を握りしめて、映る自分にコクンと頷いた。
昨日は残念ながらテニスのプリンセス略してテニプリにはなれなかったけど、今日の団体くらいは……力あわせておきたい。うん。
まあ私がやる役ってライトとかだろうなー


「…って、なんでピッチャァァァァァァァ!!!!!?」
「ごめん、青田さん!!」
「こいつが選手登録だした時に間違えてさ!」
「もう登録は変更できないし、ごめんなさい!」
「おい孝也…エ、エ、エエエエンコ詰めとかされんのか俺ェ?」
「しねーよ。……まあ、いっか」
「ホ、ホントか!」
「ありがとう!ホントありがとう!」
「俺の教科書には青田真央って人物でかでかと載ってるから!!」
「めんどくせェ褒め方だなおい」


大会直前になってピッチャーということを知らされた私は内心焦っていた。


「そ、そういえばどこと戦うんだ?」
「俺達はシードなんだ。4位から入ることになってる。今のところの候補は2Aと3B、3Eと3Zだなァ」
「3Zはなあ。土方先輩いるしなァ」
「土方?が、なんだ?」
「うまいんだよあの人。多分今大会一番期待された人だと思う」
「へェ…」
「まあ、俺達焼肉ねらってないから!とりあえず楽しもうよ」
「…ああ」

嘘つくんだな、こいつらも。顔に一人ずつや き に くって書いてあんぞ。
私はポケットに手突っ込んで、軽く投げ合いの練習をしている人達をボーッと見た。





「えっ真央がピッチャーなの?」
「らしいですぜィ」
「そ、そっか」

隆はポリポリと頭を掻いて苦笑いした。

「なんかダメなことでもあんのかィ?」
「!いや、べ、べつに」
「いやいや。シスコン野郎のその顔に書いてあるアルよ?」
「男共の中に一人妹がいるのがいやなの?気持ちはわかるわ」
「青田くん、ポカリ飲んで元気だして」
「あ、ああ…ありがと」

受け取ったポカリをぎゅっと握りしめた隆は、ベンチに腰をかけた。

「真央…小学生ん時、野球やってたんだ」
「へーそうなのか!素晴らしいじゃないか!」
「……でもやっぱ、女だからナメられることが多いらしくて。試合中に喧嘩ふっかけられて大乱闘。真央もそれをきっかけに野球のグローブとかバッド、全部捨てた」
「小学生なのにやることすごいな…」
「だから、それを思い出さないか心配なんだ。……俺が一番不安を感じるんだ。何もできなかった俺が一番、あの時を悔やんでる」
「青田−」
「銀ちゃん!」
「坂田先生…」

銀八が向こうからやってきて、隆の隣に座った。

「お前が不安になってどうすんだよ」
「えっ」
「一番身近にいて、一番妹の事を理解してやってんのはオメーだろ?」
「…はい」
「妹は兄を頼りたいのに、兄の存在に安心してんのにテメーがそこで余裕なくしてたら、アイツが戸惑うだろうよ」
「……」
「兄貴なら胸張って、両手広げて、妹迎え入れる体制構えとけや。何も言葉なんて必要ねーんだろ。お前らは兄妹なんだから、通じ合うもんちゃんと通じ合ってんだろ?」
「……はい。そうですよね、わかりました!」

すくっと立ち上がった隆は優しく微笑んで、そのままグラウンドに視線を向けた。
練習をしている男子生徒たちを無表情で見る真央が遠くに見える。
アイツだって、やりたいよな。野球。
坂田先生の言うとおり、俺がアイツの支え棒になろう………




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