(初恋篇)
年が明ける1週間前、私の部屋は色んな荷物で座るにも座れない状況だった。
そんな中、クローゼットの前で仁王立ち。
すっかり返すのを忘れていたそれは、
「…坂田の服」
クリーニングに出したままだった。
どうせ後で渡そうと思ってまた忘れてもあれだし、今すぐ届けに行こう。
コートを着ながら時間を見たら5時半。さっさと帰ろう。
「隆ちゃん、ちょっと出かけてくる」
「外寒いよ?」
「ちゃちゃーっと行ってくるから。友達ん家」
「あ、ちょっと待って。じゃあこれ」
隆ちゃんがブーツを履いていた私の首元に、自分が登下校中に使うマフラーをかけた。
「いいの?」
「真央が風邪引く方が嫌だ。あ、ジャンプ買ってきてー」
「マフラーに免じて買ってきてあげる」
隆ちゃんに見送ってもらいながら、私は外に出た。
少し積もった雪と今もチラチラと降るそれは、まさに"粉雪"だった。
帰りにジャンプ買うついでにおでんも買おう。
あと、隆ちゃんが読み終わったらギンタマン読もう。
「………はぁ」
息を吐いたら白い気体の塊が少しずつ消えてなくなった。
すっかり、冬。3年生の受験生はみんな勉強勉強ばっかり。先生もね。
実は冬休み前に担任から4枚目の志望校調査が渡された。
三者面談は無理やり連れて行かれたけど、私は"いかない"の一点張りでお母さんも担任もてんてこ舞いの様子だった。
……でも、もし行くとしたら…夜兎工業高校か吉原商業高校だな。ウン。
スタスタと歩いて18分。ようやく見覚えのある青っぽいアパートに着くことができた。
確か右から…3番目?だった。チャイムを押す。出ない。
もう一回。出ない。仕方なく強めにドアを叩いてみた。
「坂田ー。青田妹なんだけどー」
……。返事、なし。ここまで来たら寝てるか出かけてるか。
アイツの電話番号も知らないし、しょうがない。先にコンビニに行ってジャンプとおでんをここに持って来よう。
玄関の外で待っていたら、あの男が帰ってきてもすぐわかるから。
私は一度通った道を引き返して、すっかり暗くなった空をチラリとみてみた。
さっきまで夕方の空模様だったのに、もう曇天のように真っ暗になっている。
今日の江戸の空は、クリスマスイブには不向きだろう。
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