(初恋篇)





12月になった。受験生は三者面談の季節。
うちの妹真央は、今日も家でダラダラとテレビを見ている。
受験生にとって冬休みは最後の根性入れる時だぞー?
にしても、高校行かない…って言って聞かないからな。

そんな俺はさっきから、珍しく私服を着てそわそわと時計を見ている。
今日は坂田先生の家庭訪問の日。先生来るかわかんないけど。
一応俺も、Z組の中では志村姉弟やトシと並べるくらいの成績はある。
校則違反にも気を付けてるし、指摘されるようなことはないはずだけど…。

ピーンポーン

きた!ダダダッとリビングから出て、急いで玄関のドアを開けた。
坂田先生はお馴染みのマフラーで口元を隠しながら「よォ」と言った。

「お久しぶりです、坂田先生」
「だなー。保護者はいるか?」
「はい。父は仕事ですが、母はいます」
「そうか。じゃ、あがらせてもらうぞー」
「どうぞ」

少し緊張しながら坂田先生をリビングまで案内した。
真央は客が来ても振り向かず、相も変わらずテレビを見ている。
どれだけ熱中してみてるんだよ…F1を…。

「あら先生!すみませんお迎えできなくて!」
「あぁ、いやお気遣いなく」

先生も真央がいることに気が付いたらしいけど、俺がよく話をする妹と認識したのかすぐに目を逸らして椅子に座った。


「それじゃあ、まあサクサクとやっていきますが―」
「お願いします」
「えっと、まあ普段の学校生活ですがー難なく楽しそうにしていますよ」
「そうですか。この子、大丈夫かしら?勉強についていってますか?」
「ええ、それはもう。特に国語と英語の2教科は常にテストでトップに入ってますよ」
「よかった…」
「先生、部活は?」
「部活かー、4月のはじめはやっぱり人よりついていってない感じがしたけど、夏明けから成長したな。大会には出せなかったけど、来年は一回挑戦してみっか」
「は…はい!ありがとうございます!」
「まーくじけず頑張ってくれ」


次に先生は、カバンから封筒を取り出して母さんに差し出した。
おそらく成績や保護者への連絡などについての紙が入ってるんだと思う。
そこからお金の話になって俺は暇になったから、そーっと立ち上がって真央が座るソファに腰かけた。



「真央−」
「………」
「真央?」



隣をチラリとみると、真央はクッションを抱きしめながら眠っていた。
なんだ…寝ていたのか。
俺の横にかけてあったブランケットを広げて、起こさないようにふわりとかけてやった。
こうやって見ていると、眉間に皺も寄ってないし、無防備な顔してるし、可愛いのになぁ…。
俺は自然と真央の頭に手を伸ばしていてゆっくりと撫でていた。


「青田−」
「あ、はい」
「ん?誰だそいつ」
「妹です。真央って言います」
「へェー…妹いたの…か……」


コートを着て出ていく様子の坂田先生が、最後に俺に挨拶をしにきた。
先生は興味津々の様子で真央の顔を覗き込んで、ゆっくりとその顔の笑みが消えた。
どうしたんだ、先生?


「こ、こいつ…」
「先生?」
「あ、いや…」
「んー……」
「!」


その時、真央が眉間に皺をよせながら背伸びをした。
あ、起きちゃったか。


「ん…おはよう隆ちゃ………」
「おはよう真央。あ、この人俺の担任の」
「あ……あはは…」
「………最悪」
「坂田銀八先生っていうんだ」


坂田先生は顔をひきつらせながら笑い、真央は俯きながらブツブツと何かつぶやいている。


「え?なに、知り合い?」
「夏休みn「知らないこんな人。よろしくお願いします」…ど、どうも」


坂田先生の言葉を遮るように真央が珍しく大きめな声で答えた。
夏休み?が、どうしたんだろう先生。


「あ、先生これもって行ってくださいな」
「あ、お気遣いどうも…すみません」
「いえいえこちらこそ、態々遠いところまで」
「先生、また1月ね」
「おお、また……真央ちゃんも、さよなら」
「さようなら坂田"先生"」


にっこりとした笑みで返す真央に、坂田先生はまた顔をひきつらせた。
ちょっと怒ってんのか?あ、寝起き不機嫌だもんな。
先生は肩をがっくり落としたように帰って行った。



「おいおい…家見た時に気付けよ俺……やっぱり青田の妹だったかー……!!」




「ありえない。ホントありえない。寝顔見られた。」




_
真央ちゃんは前々から知っていたけど、銀八は知らなかったんですよね。
あと受験生の人はちゃーんと勉強するように!
必ず後悔します。

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