(入学篇)

「はぁ……はぁ……っもうダメぇ…だ…」

バタンッ

『ウォンバイ山崎!タイブレーク182-180!』
「「「ワァァァァァァ!!」」」

倒れこんだら誰かがコート内に入ってくる音がした。
すぐに抱きかかえられて、顔を覗き込まれる。

「隆ちゃん…」
「よく頑張ったな。お前あんなに無気力無関心テキトー女なのに」
「……っあのバカが」
「え?」

銀八のバカヤローが…ずっと、タバコ吸いながら見ていたから。
目があった時に片手上げて、口パクで「がんばれ」って…。
だから、自然に手に力が篭った。

「でも負けちゃった…」
「何言ってんだよ。お前はまだ明日があるだろ?」
「銀八…」
「坂田先生!」
「おーう青田兄妹。こうやって見るとそっくりだなオイ」

銀八は皮靴にも関わらず神聖なコートに足を踏み入れて、隆ちゃんと並ぶように私の顔を覗き込んだ。

「熱中症だなコリャ。そこの木陰で休んでろよ」
「先生、高杉先生は?」
「アイツならグラウンドの方で大けがあってその処置に回ってるらしいよ」
「じゃあ僕が見てます」
「お前プログラム覚えてるー?次の出番は青田隆って書いてあるだろ」
「っ……はい。じゃあ、頼みますね」
「おう任せときなさーい」
「はぁ………はぁ」
「………ったくあちぃのに。いくらザキが何もできなさそうな地味な野郎に見えてもなァ、あいつはミントンしかないから。ミントンに命かけてるから。真央がかなうことはないんだって」
「先生軽く僕の事貶してますよね」

鼻で笑った銀八は私を抱きかかえてコートからゆっくり出て行った。

「けほっ…げほっ」
「おい大丈夫か?」
「バカ…アンタの煙!こほっ」
「ああ…わりぃわりぃ」

銀八は木の下で私を降ろしてからタバコを携帯灰皿に放り投げた。

「……はぁ」
「落ち着いたか?」
「ん、まあ……。でも…」
「あ?」
「初めての感情が…あって、よくわからん」
「初めての感情?んだソレ」

ドキドキが止まらない胸の鼓動を抑えるように、そっと手を置いた。

「あんなふうに、頑張ったことなんてなかった。あんな、悔しいって思うこともなかった。…なんでだろ」
「……よっと」

寝ころんでいた銀八が起き上がって、私の手に自分の右手を重ねてきた。

「え」
「わかってんだろ」
「……は?だから、わかんないって」
「ここが」
「……」
「ここが何よりの証拠だろ。こんなにドキドキさせやがって……」
「…?」
「…あー、もう。だーかーら…真央が、楽しんだって事だろ?心の底から」
「……あ、あぁ…そっか」

そうはっきり言われるとなんだか恥ずかしくなって、前髪をさわりながら草木に視線を落とした。
銀八もそっと手を離して、体をすらせてこっちに寄ってきた。ち、近ぇよばか…

「もう今日は出るもんねーんだろ?」
「ん?…うん」
「じゃあ……一緒にいるか」
「うぇっ」
「何その馬が引きずられた時みたいな声。嫌ならいいんですけどー、別にィ、銀さんは生徒が心配なだけだからー。いいよ?うん。友達と見ておいでよー」
「ちっが…!!気持ち悪くて言ったんじゃない!!」
「はいはいそうでしゅねェ。銀さんもう加齢臭ただよいかけたおっさんですもんねェ」
「だからちがァァァァァァう!」

ふっと笑って寝ころんだ銀八が、あっと呟いた。

「あ?」
「……いや」
「なんだよ」
「ナンデモナイデス」
「い、言ってよ」
「だって真央ちゃん絶対怒るもーん」
「怒らない事を考えておくから、言ってみ?」
「怒らないって言えよ。…いやさァ、ホラ。3Cの湯島さんのパンツ…見えたなァって」
「へっ…変態……」
「うおい!本気で引くなや!アメリカンジョークだろうが気さくな!!」
「あーはいはい」
「真央ちゃん違うからね!銀さんそういうの見境なしに好きだからね!だから真央も見せてみなさい!」
「アンタばかァ!?訴えるぞ!!」
「実を言うともう3回もみて銀さんちょっと理性失いかけてます!」
「うおォォォォォォ!!」
「ぐはァァァ!?ってめ、殴るなや!」
「正当防衛じゃ!!!」


「「「「「「「うるせェェェェェェ」」」」」」」」」

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