(初恋篇)



今日は恋人たちのクリスマス前日。つまりイブ。
バカップルはきっとこの日から恋人と共にすごし、幸せな日になること間違いなしであろう。
だが28にもなって彼女も、遊ぶ女も、誰もいない俺は自然とある電話番号に通話をかけていた。

『もしもし?』
「あ、長谷川さーん?今夜飲もうよ。二人で」
『おう、分かったー』

銀魂高校に務めている(が無職同然)の長谷川泰造。何かと気が合い、話も盛り上がる俺の飲み仲間だ。いつも通りのノリで承諾した長谷川さんに"クリスマス"という言葉はないだろう。絶対。
俺達は夕方から飲み始めた。自分で言うのもなんだけど、頼むから俺の生徒にはこんな風にはなってほしくない。普通に所帯もって幸せなクリスマスイブを送ってほしい。


「あー仕事も金も女もねェよ、世の中」
「ホントだよ。この時期は嫌でも自分の無力さが見せつけられるな」
「まァでもよ銀さん。人生人それぞれさ。俺にとってはこれがピッタリと型に当てはまるのかもしれん」
「だったら俺はどうなんだよー…。まだ20代だってのに、綺麗な女一人もつれてこないでこんな服で…」


ちらりと酒を持っていない右手で袖口をつまんだ。
ちゃんちゃんこって。いや、すぐ飲みたかったから家出たらちゃんちゃんこだったってだけだけど。
まあ長谷川さんも俺と似たようなもんだけどよ…。


「銀さんはいい男なのになァ。俺は分かってるよ、銀さんの全て」
「その言い方やめてくんない。なんか男色くさいわ」
「いやいや。銀さんは男女関係なくモテるだろうよ。もちろん女には恋愛という意味でもモテるけど、やっぱり人間は人として好かれないと気持ちよくなんねーよ」
「まァそれはそうだよな」
「俺はやっぱり器量がないせいか、すぐ何かやっても運悪く失敗して、それで怒られたり下に見られちまう。まあ今更そんな事僻んだって何もないから、いいんだけどな」
「俺は長谷川さんの生き方好きだけどな」
「いい事言ってくれるよ…。銀さんはなんていうの?あの、人柄がいいっつーか」
「遊び人なんですけど。反面教師って言われてんすけど」
「必要以上の教育を子供に学ばせたってさ、心育てなかったらそれはただの"アンドロイド"だよ。でもよ、1Zの生徒はみんな自分の意見を持っているよな。このご時世であんだけ自己主張激しい奴らまとめられるのは銀さんくらいだよ。それはやっぱ、銀さんが器量よくって懐でかいってことだよ」
「自分じゃあよくわかんねぇよ…」

苦笑いで返した。確かにアイツらには驚いた。
国語の教師としてあの学校に務めて、初めて持った担任がアイツら。
やっぱ担任になると給料もそれほど上がるって教頭から聞いた俺は即Z組の担任になることを承諾した。
生徒と教師まとめて厄介払いって意味だったんだろうけど、俺には好都合だ。
E組の奴らみたいに、ただ時間が過ぎるのを待っているだけじゃない。
C組の奴らみたいに、切羽詰った表情で板書を書き写しているわけじゃない。
確かにZ組の奴らは、高校生としてはできてないと思う。
だが、アイツらはちゃんと自分の気持ちを持っていて、自分のペースで自分が選んだ道を少しずつ歩んでいる。
学校という囲まれた空間であれだけ騒がしくできるのも、奴らが学校というものを"学ぶだけの場所"と見ていないからだ。
ただの学ぶだけの場所になっちまったら、雛はいつまでたっても巣からは飛びだてない。
俺達教師がしてやることは、規則正しく雛を並ばせて生活させるんじゃなくて…暴れまわる雛達に、ひとつひとつ餌をやることなんじゃないのか。
その餌は別に、なんだっていい。俺はその餌をアイツらに選ばせているだけだ。
これから3年間で、きっと俺もアイツらから色んな事を教わることになると思う。
大切なのは自分の色に染めるとか、自分の型に嵌めるんじゃなくて…。


「ちゃんとテメーの口で…テメーの信念や気持ちを、伝える事ができるようになってくれりゃあ…俺ァ別に国語とか教える必要ナシ」
「かっこいいねぇ…銀さん」


長谷川さんが酒瓶を傾けたから、空のコップに注いでもらう。
こういうイブも悪くはねーんじゃねーか?

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