しあわせをうたうのはだれ




「はっぴばーすでーとーゆー♪はっぴばーすでーとーゆー♪」


昼食を作っていると、居間の方で娘の陽気な歌い声が聞こえてくる。
3年前に幼馴染だった着物屋五平の若旦那と離婚してからは、5歳の娘と二人で住んでいる。
でも娘も私も、パパがいなくて寂しい思いをしたことはない。
あの子が産まれるずっと前から、私にはある人が傍にいてくれたから。


「銀ちゃーん。テーブルの上片付けておいてー?」

…。

「あれ、銀ちゃん?」

「ぎんちゃ、は!すぐ、もどってくるって!でかけただよ!」

「そうなの?もう、一緒に遊んでてって言ったのに…」


元夫の浮気を疑った私は、万事屋に浮気調査を依頼した。
依頼した当時、私のお腹の中にはこの子がいたから、銀ちゃんは私の家にきて依頼報告をしてくれた。
それだけでなく、妊娠中の私をほったらかしにして女と遊びまくっていた元夫に、私の分まで一発ぶん殴ってくれた。
出産の時もお登勢さんを呼んできてくれたり、この子が無事に産まれてからも毎日家事の手伝いをしにきてくれたり…。
次第と私たちはお互いに惹かれあっていた。

恋人になってからもうすぐで3年。
私の家族は、娘だけじゃない。銀ちゃんも、神楽ちゃんも、新八くんも。
私は、あの時よりも暖かい気持ちに包まれていた。


「はっぴばーすでーとーゆー♪はっぴばーすでーとーゆー♪」


再び聞こえ始めた歌声。
若干発音が違う気がするけど、高らかな声を聴くとそんな事すら愛おしくなる。
出来上がった3つのオムライスを少しずつ居間に運んで行った。


「誰のお誕生日を祝ってるの?」

「んっとね、パパ!」

「…え?」

「きょうは、パパのおたんじょうびだよ?」


そんな訳ない。この子はあの男を知らないはずだし、第一あの男の誕生日でもないはず。


「パ、パパ…」

ガララ

「ういーす」

「あ、ぎんちゃ!」

「お、ただいまー」


帰ってきた銀ちゃんに駆け寄った娘を銀ちゃんはギュッと抱きしめた。
その右手には大きな箱がある。さっはそんなものあっただろうか。


「どうしたの?それ」

「んー、ちょっとな。それよりいちご牛乳持ってきて」

「あーはいはい」

ストックしてあったいちご牛乳を入れてくるために、もう一度台所へ戻った。

「わあー!ケーキだあ!」

「まあ待て。これはちゃんとみんなの分分けるんだからな?まず5分の3が俺で…」

「ぜんぶたべるー!」

「え、ケーキ?」

頭の中をハテナマークをいっぱいにさせながら、3人分のいちご牛乳が入ったコップを持って居間に戻った。
テーブルの上には大きなケーキ(見た目的に彼の手作り)があって、銀ちゃんの横で娘が目をキラキラさせていた。

「なんでケーキなんて作ってきたの?」

「だからねママ!きょうは、パパのおたんじょうび!」

「パパ…って」

「まあ、ちょいこっち来てくれ」

銀ちゃんが娘を自分の上に座らせて、ポンポンと横を叩いた。
大人しく座ると、「ん」とケーキを指差す。


「はっぴばーすでーとーゆー♪」

「…え」


"結婚しよう"

ケーキの板チョコの部分に、確かにそう書かれていた。


「なあ、結婚しようぜ」

「………」

「俺がコイツのパパになるんだ」

「パパのおたんじょうびー!」

「おいおい、俺の誕生日は秋だろ?今日は結婚記念日ってやつだ」

「けっこんさんのおたんじょうびー?」

「んー、まあそれでいいか」

「はっぴばーすでーとーゆー♪はっぴばーすでーとーゆー♪」

「結婚しよう」

「…わ、私、バツイチだし……」

「そんなの関係ねえだろ。俺はお前と、コイツを護りたいんだ」

「いいの…?こんな…」

「いいの」


銀ちゃんが優しく私を抱き寄せた。
嬉しさと恥ずかしさで、胸元に顔を埋める。
後ろのほうでは娘が覚えたての歌を歌っていた。



私たちの、記念日の歌。
とてもとてもしあわせなうた。




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wedding march様に提出。
素敵な企画に参加させていただきありがとうございました!



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