やっとの思いでなまえを後部座席に乗せて、自分は助手席に乗ろうと考えていた。だけどちょっと思い直してなまえの隣に乗り込む。
「ちょっと、なんで隣にくるのっ!」
「お前がかわいいからさ」
「あんたにそんなこと言われても全然うれしくない」
頬を膨らませて、わかりやすいほどにむくれたなまえは車が動きだして諦めたのか、窓の外を見ている。
「あーあ、今は…6時か、朝の」
「わざとらしいあくびだね」
「本物だ、本物。お前がいなくなってどれだけ心配したと思ってんだ」
「ウソだ」
「嘘じゃねーよ、俺はなまえに嘘はつかない。とりあえず今日も学校休みだな」
「最初っから行く気なんてないくせに」
心配したのは嘘じゃない。夜中の1時に黒服たちが何か慌ててると思ったら、なまえがいなくなったって言うじゃないか。なまえの警護をしているはずの黒服のことはとりあえず殴ったし、GPSで場所を確認するなりヤクザに迎えを任せた親父にも腹が立った。 だけど、なまえに嘘をつかないって言うのはちょっと嘘。こいつにすべての真実を話すにはまだ早すぎる。
昔…ほんの2年前までは、なまえは俺によく懐いていた。この世の人間は全てバカな下僕か敵だと思っていた俺の世界の、唯一の住人がなまえだった。だけどだんだん俺を避けるようになって、最近では近寄ってくるのは何か企んでいるときだ。 思春期か?反抗期か?それにしても激しすぎる。
「一緒にお風呂はもう諦める、だからだなまえ、せめて普通にすごそうぜ」
「まだお風呂とか言ってるの?」
ものすごく、虫でも見るような目で俺を見てくる。いや、これでも俺としてはかなり妥協したんだが。ていうかまだ親父とは入ってるんだろ?親父も俺も変わらないじゃないか。
「お兄ちゃまの大好きな、お金でなんとかなる女じゃなくて残念でしたぁ」
べー、と舌を出しながら悪態をつくが、俺は腹をたてたりはしない。お兄ちゃま、だ。数ヶ月ぶりの。もしかしてこれは歩み寄りの大きな一歩ととっていいんだろうか。
ただ、何にしても俺の顔の筋肉の弛緩はとまらなくて、さっきの「お兄ちゃま」が頭の中を駆け巡るのだった。
言ってみりゃボディー・ブロー
(に、にやにやしないでよ気持ち悪い!)
(毎日お兄ちゃまって呼んでくれるなら考えよう)
----------------- 坊っちゃんが最初「お兄様と呼んでくれ」と言ったのは恥ずかしかったからです。カイジの前でお兄ちゃまと言うのが(^q^) こんなかんじでどんどんキャラが崩れていくよ(キラッ
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