「なまえも行きたかったのにぃ」

「あそこは遊び場じゃないから、ね?」

「でもおじさんたち遊んでるよ」

「子供の遊ぶところじゃないんだ」

「大人の遊び場なの?」

「……まぁ、そんなところか」



 こんな小さな子に言わせる言葉じゃないような気もするが、間違っているわけでもないので、そういうことにしておこうと村上は思った。
 何度連れ戻してもふと目を離した隙に逃げ出すので、村上はなまえを膝の上にのせて仕事を進めることにした。幸いにも書類の残りは少ないので、なまえが村上に飽きる前に終わりそうだ。



「せーやくん向こうで何してるの?遊んでるの?」

「見回り…悪いことしてる人がいないかとか、常連の人が来てないかとか」

「ふーん」

「あぁほら、そこのモニターに店長映ってるよ」

「どこ!?」

「ここ」

「ほんとだ!」



 ひと段落ついたため村上がなまえを抱いてモニターの前に連れて行くと、ちょうど接客中の一条が映っていた。営業スマイルを携え、常連と思われる客に挨拶をしている。
 なまえがはしゃぎながらモニターに向かって手を振るが、もちろん一条に見えるはずはない。だが一条と一瞬視線が合ったのに気が付いて、村上はなんだか背筋にぞくりとしたものを感じる。千里眼か、店長は。



「せーやくん、店長なの?」

「そうだよ」

「てんちょってすごい?」

「店長がすごいとは限らないけど、一条店長はすごい人だな」

「村上くんもせーやくんだいすきなんだね」



 村上くんも、と言うことは、なまえは一条が大好きという前提で話しているのだろう。そんな風に素直に自分の気持ちを表せることが、村上には少しうらやましいことのように思えた。
 大の大人の男がそんなことを言うと誤解されかねないが、今はなまえと2人きりだしいいだろう、と思って村上は肯定的な返事をした。モニターから一条が消えたことには気が付かなかったらしい。



「せーやくん戻ってきたらさ、紅茶いれてもらおうね」

「うん?」

「ママがね、みんなでどーぞってクッキーとチョコくれたの。おいしいよ」

「それはどうも」



 それじゃ、聖也くんが戻ってくる前に片付けますか、と呟いて、村上はほんの少し残っている処理に戻った。なまえはデタラメな鼻歌をうたってご機嫌な様子である。



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