「せーやくんせーやくん、なまえもあれやりたい!」
そういってなまえが指差したモニターには、パチンコをする初老の男が映っていた。男の横にはドル箱が積まれている。
「パッキーが買えるならご自由に」
「あ、ポッキーたべたい」
「……話聞いてんのか?」
聞いてるからポッキーの話になったんじゃないか。理解はしていないだろうけど。村上は思ったが、やはり触らぬ神に祟りなし、というわけで胸の中に収めておいた。
「じゃああれ!」
「どうぞ、チップをお持ちのお客様なら誰でもウェルカムです」
「ポテトチップたべたい!」
「…昼飯食べたばっかだろうが」
「お菓子はベツバラだよってママがいってた!」
「子供に何を教えてるんだあいつは…」
なんだかデジャヴを感じつつも書類を処理していた村上は、どうしても資料と合わない数字に頭を抱えていた。ミスがあるとすれば自分に落ち度がある分野なので、ただでさえ機嫌の悪そうな一条に声をかけるのはためらわれる。 しかしここを処理しないとどうにもならないのもまた事実。もう一度見直して、やはり事態が改善されないことを確認し、村上は恐る恐る一条に声をかけた。
「あの、店長…」
「何だ」
「ここの数字と資料の数字がどうしても合わないんですが」
「どれ、見せてみろ」
「なまえも見る」
「お前はいい!」
なまえを片手で押さえながら、一条が1枚の紙とコンピュータの画面を見比べる。その手つきが意外にも柔らかいのに気づいて、村上は少し安心した。案外一条も、根っこのところではこの状況を楽しんでいるのかもしれない。 数分もしないうちに、一条が何かに気づいたように小さく声をあげた。なまえも一条の真似をして、声をあげた。その声量は、一条のそれの3倍ぐらいであったが。
「これ、この後に数字の変動があったんだ。保存してなかったみたいだな」
「なるほど」
「たぶんあのフロッピーに入ってるはずだから探してくれ」
「はい、わかりました」
備えあれば憂いなし、デジタル文書なんて信用ならねぇ。そう言って各所にバックアップを取っておくのが一条の癖であったが、この習慣があってよかったと村上は胸をなでおろす。
「それじゃあ俺はフロアの巡回に行ってくる」
「あ、はい、お疲れ様です」
「じゃあ、なまえを頼んだぞ」
「はい………え?」
フロアになまえを連れて行くわけにはいかないだろ。そう捨て台詞を残して、一条は出て行った。なまえも当然のようについて行こうとドアを開けたのを見て、村上は近頃すっかりなりを潜めていた瞬発力を発揮することとなったのである。
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