「ねーえなまえちゃん、何か欲しいものある?」

「いきなり何…?」

「いいからいいから」



寝転んで雑誌を読んでいると、三好が聞いてきた。そんなのいきなり聞かれても…。
天井を見上げて考えてみる。うーん。三好の靴下が全体的にびんぼっちいんだよなぁ。私の財布も金具が壊れて輪ゴムでとめてるし。そういや蛍光灯も1本切れてるんだ。
そこまで考えて、なんだか悲しい気持ちになってきた。なんでこんなに貧乏なのか。だいたい欲しいものを言ったところで手に入る可能性はほぼない。考えるだけ無駄である。
天井から三好へ視線を移動する。三好は一体何を言われるのかと緊張した面持ちをしていた。なんだよ、自分で聞いといて。



「思いついた?」

「うん」

「な、なに?」

「定職」

「定食?ハンバーグとか?」

「違う、仕事」

「あ、そっちか」



いや、どんだけお気楽なんだよ。定食どころかカップ麺生活だっつの。



「そうじゃなくてさぁ〜」

「えー…じゃあ三好の靴下」

「そうでもなくて」

「じゃあ何なのさ!」



床から三好を睨むのに疲れたので、起き上がって向かいに座る。
だいたい、気のきかない三好がいきなりこんなことを言いだすのが不自然じゃないか。何かあったっけ…と考えてみると、心当たりは1つあった。



「普通さぁ、誕生日プレゼントのリサーチってもっと前にするもんだと思うよ」

「えっ、ち、違うって!」

「隠さなくてももうバレたよね」

「違うんだよ、なまえちゃんの誕生日忘れてたわけじゃないから!」



三好はなぜか正座すると、顔を赤らめてもじもじし出した。本当に何なんだこの生き物は。
ていうかそっちかい!忘れてたのか、誕生日。うん、期待はしてなかったけどさ。自分でも忘れてたし。



「プレゼントなんていらないからさ」

「そういう訳にもいかないよ、せっかく誕生日なのに」

「そのお金さ、どこから出てくるの?」

「それは…」



私のバイト代ですよねー。
三好は前の職場をクビになって以来、もう2ヶ月ぐらい無職のままだ。無職がプレゼントを贈ろうだなんて片腹痛いわ。自分で稼いできてから言ってくれ。
家賃と光熱費も半分ずつって約束じゃなかっただろうか。あれは聞き間違いだったのか。そうかそうか。



「とにかく、何もいらないから」

「で、でもぉ…」

「あのね、三好」

「うん?」

「私さ、三好さえいてくれれば何もいらないから」

「なまえちゃん…」



とりあえずこの話題を終わらせたくそう言うと、三好が目を潤ませて抱きついてきた。全身で鳥肌をたてながらも受けとめようとしたが、受けとめ損ねて背中から床に倒れた。天井の代わりに三好の顔が視界を満たしている。



「なまえちゃん、僕、一生なまえちゃんのこと離さないからね!」

「はいはい、だから明日ハロワ行こうね」

「うん!…うん?」

「何か?」

「な、なんでもないです…」



なんだか複雑な表情をしたまま三好の顔が近づいてきたので、反射的にひっぱたいてしまった。ちょっとかわいそうに思って、首を上げて触れるだけのキスをしてやる。
その瞬間、ぱっと笑顔になって、ことの続きに挑もうと手がのびてきた。単純でかわいいなぁと思ったけど、全くそんな気はなかったので蹴飛ばして上から退かす。

あからさまにしょんぼりする三好が面白くて、思わず笑ってしまう。三好もつられて笑いだして、そのままふたりでわけもわからず笑い転げていた。なんだか頭がヤバい人たちみたいだ。
だけどまぁ、貧乏だろうが頭がおかしかろうが、笑ってられるうちはなんとかなるんじゃないかなぁ…なんて平和な理論が出てくる頃には、笑っている理由なんてとっくに忘れていた。




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