ふたり掛けのソファに横たわり、ひじかけを枕にしてテレビを見ていたなまえが、ふわりとひとつあくびをした。壁にかかっている時計は10時を指している。寝るのにはまだ早いけど、このままでは睡魔に勝てる気はしなかった。そう思っているそばからどんどん重くなっていく瞼がついに閉じられて、見ることに使われていた神経が聴覚に集まったかのように、先ほどまでは聞こえなかった、気にならなかった音がなまえの耳に届く。バラエティ番組のわざとらしい笑い声、時計の秒針が巡る音、そしてバスルームで水が跳ね返る音。そうだ、髪を乾かそうと思っていたのだった。しかしドライヤーは洗面所兼脱衣所にある。取りに行くのも面倒だし、もはや目の前にドライヤーがあったとしてもそれに手を伸ばす気力すらない。別に髪が濡れていたって死ぬわけじゃなし、このままでいいだろう。自堕落な不精さ半ば呆れつつも睡魔と友好を深めていると、やがてキュっと蛇口の締まる音がしたのと引き換えに水音が止まり、なまえは鼓膜を刺激する質量が半減したように感じた。



「なんだなまえ、タオル被ったままで」

「んん、あぁ、赤木さん…」

「そんなところで寝てたら風邪ひくぞ」



冷蔵庫の前で缶ビールを一口飲んでから、赤木はソファの前に座った。髪もまだ濡れたままで、パジャマ姿の無防備な同居人は、さらに無防備なことに服が捲れて腹まで見えている。そんなに広い面積ではない、せいぜい2センチや3センチであったが、寒くないのだろうか。裾を引っ張って隙間を埋めてやりながら赤木は思った。
無造作に置かれた腕も、袖が捲れて手首があらわになっていると思い引っ張ってみたが、そうではないらしい。3回試してみたがどう考えても手首まで覆えそうになかった。赤木が色々いじっているうちにまだ浅かった眠りは覚めたようで、なまえがゆっくりと目を開けた。なまえの目の前に最初に映ったのは、なまえの袖をつまんで難しい顔をしている赤木である。



「何してるんですか赤木さん」

「明日、服でも買いに行くか?」

「は?」



寝起きの自分の頭が動いていないのか、それとも赤木の発言が脈絡のないものなのか、その判断を決めかねたなまえが目をぱちくりさせていると、赤木が口を開いた。



「とっくに成長期なんて終わったくせに、なんでこんなつんつるてんの服着てるんだ」



気の毒そうな、しかし「あぁ、貧乏性だから」みたいな多少馬鹿にした表情を織り交ぜた赤木が発した言葉に、なまえはやはり困惑しながら、自分の今着ている衣類を見た。そして赤木の言葉の意味をようやく理解し、同時に完璧そうに見える赤木の意外な勘違いを発見して、思わず吹き出してしまった。



「やだな赤木さん、これ、七分袖のシャツですよ」

「七分袖?」

「知らないんですか?」

「馬鹿にするなよ、七分袖ぐらい知ってらぁ」

「じゃあ何ですか、つんつるてんって」

「俺の知ってる七分袖はこんなのじゃない」



起き上がって赤木の隣に座ったなまえはもう一度自分の袖を見る。ああそうだ、たしかにこれは「七分」ではない。そう理解したなまえが頬を膨らませて赤木をにらむと、赤木はくくくと笑い、なまえの髪を拭こうとソファの上に残されたタオルに手を伸ばした。



「つまり、これは七分じゃないって言いたいわけですね」

「七分ってのはよ、これぐらいだろう?」



赤木はなまえの腕の、肘から10センチほど下をぐるりと指した。一方なまえが七分だと言い張る袖の方は、手首から10センチ上まで延びている。なんとも中途半端な、微妙な長さである。遠回しに小柄なことを指摘され、子供扱いされたような気がしたなまえは顔を赤くして怒るのだが、それがまた赤木を喜ばせていることには気づいていないようだ。



「ほら、髪拭いてやるからこっち来いって」

「いいです、自分でやりますー!」



唇をとがらせてそう残したなまえは、洗面所へ向かった。きっとなまえは「洗面所は寒い」なんて理由をつけてドライヤーを持ってこっちに来るだろうから、そしたらその手からドライヤーを奪ってやろう。ぐい、とビールを飲み干しながら赤木は計画した。膝を曲げて座った脚の間にすっぽりと収まるなまえを考えると、笑わずにはいられないのである。




.


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -