「だってあのジジイ、どう見てもジジイじゃねーか」
「愛人の子だもん。なまえが生まれるまでは、若くて綺麗な愛人さんがたくさんいたんだって」
「ふーん…」
ってことはあのジジイ、ああ見えて10年前まで…いや、これについては深く考えないでおこう。とんでもなく気持ち悪い気がしてきた。
「お前が生まれるまで、ってことは一応あのジジイも身の程わきまえてんだな」
「今だって、遺産目当てですりよってくる女なんていっぱいいるよ」
「(そういや大金持ちだったな…)」
「でも、お父様は正式な妻はとらないの。何を考えているのかわからない女共に遺産なんかやりたくないでしょ?」
「まぁ…」
なまえは床に降りてきて、俺の前に座った。短くも長くもない、上等そうなスカートをはいている。言わずもがな、上目使いだ。なんか危ない気がする、俺の本能が言った。
「まだ気づかないの?」
「いや、なんとなく危険だとは感じる」
「愛人さんがたくさんってことは、その間にもたくさん子供がいると思わない?」
「ああ、まぁ…でもあんだけ大金持ちなんだ、それぐらいなんてことないだろ」
「そりゃ、養育費ぐらいなんともないけど、やっぱり遺産目当てで生む女もいるわけ」
「…お前、本当に小学生か?」
「もちろん。でね、子供ができたってわかるとしばらく暮らしていくのに十分なお金を渡して捨てちゃうの。もちろん認知なんてしない」
「…何が言いたい」
「ここからが本題」
にやりと笑うなまえ。
「なのにどうしてなまえは兵藤の名字をつけて、あの家で飼われてると思う?」
「母親が金持ち…?」
「そんなことお父様の知ったこっちゃないよ。生まれた子を一目見てくれって、ママがお父様に見せたのね」
「そりゃあずいぶん強引な母ちゃんだ」
「なまえのママだもん。あんね、なまえがめちゃめちゃかわいいから引き取ることにしたの」
あのジジイもそんなことで子供を引き取ったりするのか。まぁ、そういわれてみりゃたしかにかわいい。ちゃんと母親に似たんだな。
「ここからが本題の本題。そっちはなんで引き取ったのか知らないんだけど、兵藤家にはもう一人高校生の息子がいるの」
「はぁ…」
「なまえ、お父様が死んだらどうなると思う?」
「そりゃあお前、俺が見たこともないような額の遺産が…」
「お金だけで世間知らずの女の子がどうやって生きていくっていうの!」
「お前の親父がよく金さえあればって言ってるじゃねーか」
「使い方を知らなければむしりとられるだけ。なまえ、きっとあの豚に飼われて一生暮らすんだ!」
「ぶ、豚?」
「もう一人の息子、本当に豚みたいなやつなんだから」
だから、と俺ににじりより、涙目で俺を見上げる。正直に言ってこいつが小学生でよかった。もう少し大人だったらわからない。涙は女の武器って言葉の意味がようやくわかったぜ。
「だからなんだよ」
「なまえと結婚して!」
「……はぁっ!?」
「あんなに素敵な目をしていた人、初めてなの。本当に一目惚れ」
「・・・」
「正直、ここで見たときはこんなに気の抜けた顔してたっけってがっかりしたけど、命懸けの勝負してるわけじゃないんだし、しょうがないよね」
「…悪かったな、気の抜けた顔で」
「ううん、そんなのもういいの!ね、結婚して、なまえを豚から救って?」
「いや、なんかもう次元が飛びすぎて何がなんだかマジで…」
いつの間にかボロボロ泣き出した少女を前にして混乱していると、玄関のチャイムが鳴った。
恋とマシンガン
(おい、いるんだろう、カイジ)
(げっ、遠藤…!)
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