ドアを開けて一歩踏み入れればいらっしゃいませ、と受け入れてくれるコンビニがたくさんある。最近ではドアの方から自分で開いてくれたりするじゃないか。いい時代になったもんだ。俺はコンビニに行くたびにそう思う。
以前はコンビニに行くことなんてあまりなかったが、自分ひとりの生活じゃなくなると急に便利に感じるようになった。小さい子供がいると、毎回毎回外食ってわけにもいかないだろう。だけどそれと同様に、毎回毎回作るなんてこともやってられない。そんな時に候補に上がるのがコンビニだ。
つまり、今日はコンビニに昼飯を買いに来ていた。



「なまえは何食うんだ?うどんか、おにぎりもいっぱいあるぞ」



棚に並ぶ商品を眺めながら聞いてみるが、返事はない。おや、と思って下を見てみると後をついて来てると思っていたなまえはレジの向かい側にある棚の前にいた。珍しい。



「犬か」

「いぬ」



そこには、犬のぬいぐるみが並んでいた。お座りした形で、大きさは15センチもないぐらいだろうか。茶色の柴犬、黒い柴犬、なんだかよくわからないがクリーム色の毛が長めの犬、胴の長い犬。公園でよく見るタイプばかりだ。その中でもなまえの目を引いているのはクリーム色の犬のようだ。



「何食うんだ?」



なまえがさっきまで俺が見ていた棚の方へ行った。今度は俺が犬の棚を見てみる。なんでコンビニで大々的にぬいぐるみが置かれているか気になったからだ。どうやらその棚はバレンタインデーのコーナーらしい。ぬいぐるみにも申し訳程度にチョコレートがひとつついていた。



「しゃけのおにぎりとね、鳥のおにぎり」

「何かおやつ食うなら選んで来ていいぞ」



なまえじゃ背が届かないから、注文を聞いて俺が取る。そして俺も適当に選んでカゴに入れる。だいたいその間になまえがおやつを選ぶ。半ば決まりのような流れだった。
なまえをお菓子売場に迎えに行くときにさっきの棚の前を通った。バレンタイン、か。別にそんな日決めなくたって1年は365日あるんだ、いつ言ったって同じだろう。だけどそこに犬がいるのは今だけなのだ。だったらこれで気持ちを伝えるのもまた一興、俺はクリーム色の犬をカゴに入れた。



「アポロかラムネかまよったけどね、アポロ」

「どっちも、でもいいんだぞ」



はい、と箱を俺に渡す。いいと言ってるのになまえはいつも片方しかよこさない。もっと欲はないのだろうか。レジに向かったなまえを目で追いながら、ラムネもカゴに入れた。

レジのお姉ちゃんが惰性的にバーコードを読み取り終えたところで、マルボロふたつ、と付け足す。なまえはレジの下に貼ってある子供向き映画のポスターに気を取られているらしかった。



「行くぞ、なまえ」



ありがとうございました、と言う輪唱を背中に受けて外へ出た。俺の手を取ろうとして、手袋に包まれたなまえの手がのびてくる。



「その前に、反対側の手出してみ?」



なんで、と言う顔をしながらもう片方の、これまた手袋に包まれた手を差し出す。そして俺は後ろ手に持った袋の中から犬を取り出して、その手に握らせた。



「ああ、いぬ!」

「なまえが欲しかったの、これでよかったか?」



驚いたのと嬉しいのとで半々の笑顔を縦に振るなまえを見て安心した。やっぱりこれで合ってたんだな。



「ありがとう、赤木さん!」

「おー、どういたしまして」



片手に犬を抱いて、もう片方で俺と手を繋いで歩きだすかと思われたなまえだったが、一歩目を踏み出そうとしたところで止まった。もじもじと何か言いたそうな目で俺を見上げている。



「あのね、なまえね」

「おう」

「なまえね、赤木さんだいすき」



寒さで頬と鼻の赤くなった顔に満面の笑みを携えて、なまえがそう言った。気持ちを伝えるための物を(そのような意図ではないにしろ)贈った俺の方が言われてしまった。裏も表もなく、全身で思いを伝えて来る相手のなんといとおしいことだろう。やっとの思いで俺もだよ、と返して頭をくしゃくしゃに撫でてやる。年をとると涙腺がもろくなってかなわねぇってのはこう言う気持ちなんだろうか。身の丈に合わないほどの幸せを感じながら、家路へとついた。手袋をして少し大きくなったなまえの手を、しっかりと握りながら。




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