街を歩いていると、向こうのベンチに見たことある顔がいた。ひろゆきと赤木だ。赤木の隣にはガキがいるが、あれは何なんだろうか。空いてるベンチがあると言うのにわざわざあんなおっかねぇ所を選ぶ訳ないから、赤木一行ってことなんだろうか。だが、赤木にガキがいるなんて聞いたこともないし想像もできない。あったとしてひろゆき関係だろう。意外すぎる顔ぶれを思わず凝視してしまって、向こうさんに気づかれた。ひろゆきが会釈をしてきたので、ちょっと顔を出すことにする。
「よぉ、天下の赤木しげるが2匹もコブつきで何だ」
「沢田、お前こそヤクザが出歩くにゃあまだ日が高すぎるんじゃねぇのか」
ひろゆきがガキを膝に乗せて場所をあけたので、そこに座る。赤木、ひろゆきとガキ、俺。どう見てもまがまがしい空間にしか見えないだろう。男が3人並んで座ってるだけで異様なのにこのメンツだ。通行人も目を合わさずにそそくさと過ぎて行く。
「ぼうず、ひろゆきの弟か何かか?」
「女の子、です、沢田さん」
ひろゆきが苦笑いしながら答えた。質問の答えにはなっていないが。ショートカットでトレーナーに短パンだから男だと思ったが、たしかにそう言われると女な気もしてくる。だいたいガキってのは服装か髪型で判断するしかないんだから、こう言う紛らわしい格好をするのはよした方がお互いのためじゃないか。
「赤木さんのおともだち?」
「友達じゃあないと思うけど…」
「ひろくんの?」
「僕も友達ではないなぁ、お世話にはなったけど」
たどたどしい口調のガキが、ひろゆきに質問した。たしかに俺と赤木、俺とひろゆきとの関係も実に曖昧なものだ。俺が最初に3人を見て違和感を覚えたように、傍から見れば今の俺たちもそのように見えているのだろう。人間の繋がりってのは不思議なものである。そう考えると、案外このガキは赤木のガキなのかもしれないと思えてきた。おとなしそうで、一見臆病そうでもあるが、その目つきはしっかりと物事を見ている目つきだ。
「おい、ぼ…お嬢ちゃん、名前は?」
「なまえ…」
「そうか、よしなまえ、こっち来い」
ひろゆきの膝から抱き上げて、俺の膝へと場所を移す。とっくの昔に出ていった俺のガキもこれぐらいだっただろうか。少なくとも、こう言う時期はあったはずだ。あまり記憶に残っていないのがなんとも薄弱なことである。愛想尽かして出ていってしまうのも無理はない。 ガキはと言うと、何やらひろゆきに無言の助けを求めているようだった。さっきひろゆきの膝の上にいたときとは様子が打って変わって、身体を強ばらせて姿勢よく座っている。
「気をつけろよなまえ、そいつの好物は子供の生血だからな」
「吸わねぇよ」
なまえはさらに困惑した表情になって、このまま泣き出すんじゃないかと言う雲行きである。いや、吸わねぇよ。相当赤木に信頼を置いているのか、俺が化け物に見えるのか。できれば前者であってほしい。 泣かれても困るからひろゆきに返して、俺は立ち上がった。タバコに火をつけて深く吸い込む。
「じゃ、俺は行くぜ、邪魔したな」
「人見知りが激しいだけなんで、沢田さんを妖怪だと思ってるわけじゃないですよ、大丈夫です」
俺の視線が何て言ってたか知らないが、ひろゆきが弁解した。なまえは、ひろゆきの膝の上で手を振っていた。軽く手を上げてそれにこたえる。今気づいたが、トレーナーの柄が女向けだった。
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