深夜のコンビニバイトから帰って一息ついていると、何か変な音というか声というか、具体的に言うと寝息のようなものが聞こえてきた。さっきまで皿を洗ったりなんだりと音を出していたから気づかなかったが、一度気づくと頭から離れない。っていうかなんだよあのベッドの膨らみ。
泥棒だろうか。でも、部屋を荒らされたような形跡はなかったし、もし泥棒なら2つの意味で馬鹿である。こんなボロアパートに金目のものなんかないということと、忍び込んだ家で寝るということだ。
冷静になるためにこんなに落ち着いた風を装っているが、ぶっちゃけ怖い。めちゃめちゃ怖い。だって考えてみろ、朝方の一人暮らしの部屋から聞こえるはずのない音が聞こえてくるんだぜ?
「…って言ってもこのままにしておくわけにも…」
いかないよな…。悲しき一人暮らし、嬉しいも悲しいも怖いも全部自分で解決しなきゃならない。意を決して俺は、一思いに布団をはがした。
「ん…」
「…!?」
なんだこれは。
さっきまでの寝息怖いとかの比じゃない。どうして鍵のかかっていたはずの人の部屋のベッドに、見ず知らずの女の子が横たわっているんだ。しかも気持ちよさそうに寝てやがる。
「お、おい、起きろよ…!」
「うんー?まだ朝じゃないでしょー」
「いや、朝じゃないっつーか…」
「ん?」
朝じゃないと主張する少女が、むくりと起き上がってベッドの上に座った。目をこすっていてまだ眠そうだ。
「あっ」
「あ?」
「ああっ」
「な、なんだよ、俺はなんもしてないって」
「カイジくんっ!」
「は?」
「わぁ、本物のカイジくん!はじめまして!」
まったく意味がわからない。ベッドで寝ていた少女は俺のことを知っていてそして俺の首に抱きついている。
「あの、なんで俺の…」
「利根川との勝負、すっごかった!」
「へ?」
「お父様との勝負はうっかり寝ちゃって見れなかったんだけどね、切断はあんまり好きじゃないからよかったかな。お父様とカイジくんじゃ、絶対お父様が勝つに決まってるし」
「いや、いやいや、マジで何なんだよ!何でお前がそれを知ってるんだよ!」
お父様?切断?何で知っている? 俺の頭の中は、Eカードのときなんかよりずっと混乱した。とりあえず、いつの間にか後ろに回って抱きついていた少女を剥がして、ベッドに座らせる。
「あの日ね、ずっと見てたの。いつもはつまんないオジサンたちがおっこちていくだけなのにカイジくんったら全然違うんだもん!なまえ、一目惚れね」
「何でお前みたいな小娘があれを…!」
「ん?もちろんお父様はダメって言ったけど、見る方法なんていくらでもあるよ?今回は黒服にカメラで撮らせて…」
「違う、まず、何であれを知ってるのかってことだ」
「ああ、そういうことか!」
納得した顔をして、次に俺の顎に人差し指を付けて、上目でほほえんで言った。
「さっきから言ってるでしょ、あたしがあの兵藤和尊の娘、兵藤なまえだから」
奇妙なロリポップ
(むっ…娘!?だってお前どう見たって…!)
(ん?小5だよ?)
|