「いやぁー、痛かったなぁ、軟式球といえども…俺じゃなかったらどうなってたことやら」

「もとはと言えば天、お前のせいだろうが…!」

「バッカだよねぇ、ほんと」

「なまえちゃんがひとりで公園来るなんておかしいと思ったもん」



けらけらと笑い転げているお嫁さんたちも、思ってたならその時点で忠告してほしい。どっと疲れてその場にひっくり返ると、太陽がバカみたいにまぶしかった。
なまえちゃんは、天さんの膝から赤木さんの腕へと場所を変えて、ふにゃふにゃと泣いていた。そうか、赤木さんの言ってたことは間違いではなかったのか…。



「悪かったなぁなまえ、すまんすまん」

「どうせ天さんがろくに話も聞かないで連れてきたんでしょ」

「聞いたぜ、まさかそれがトイレでひとりだってことだとはなぁ…」

「絶対説明しようとしてたよ、なまえちゃんは」



目を真っ赤に腫らせて鼻水をすすりながら、それでもいくぶん落ち着いた様子でなまえちゃんは顔をあげた。
最初は赤木さんのことしか見えていない感じだった。赤木さんもなまえちゃんが見つかってほっとしたらしく、困ったように笑いながら背中をなでたり、おでこをくっつけたりしてあやしている。完全にふたりの世界だ。
僕たちの視線に気づいたなまえちゃんは、照れくさそうに再び赤木さんの胸に顔をくっつけた。



「まぁまぁ、一件落着ってことでさ、飯食おうぜ飯!」

「そうそう、ほんとバカでごめんね〜」

「さぁて、天さん卵焼き食べちゃおうかな!」



天さんがわざとらしいまでのハイテンションだ。ごまかそうとしているのか。調子のいいやつめ。
だけどお腹がすいたのは事実なので、お嫁さんから割り箸をもらってエビフライに手を伸ばすと、向こうからおじさんの叫び声が聞こえた。



「天ちゃーん、試合始めるよー!」

「だって、天さん」

「いってらっしゃーい」

「お、おれ、まだ全然食べてない…!」

「誘拐犯が文句いわないの、さっさといってらっしゃい」

「うう…」



この事件をあとから考えると、赤木さんの意外な一面が見られたという点では、天さんにちょっと感謝してもいいかもしれない。のらりくらりと生きているように見えて、やっぱり赤木さんはすごい人なのだ。じゃなきゃあんな、本気で殺しにかかるような雰囲気を醸し出せるわけがない。
でもとりあえず今は体の力が抜けたような気持ちで、その脱力感を空腹のせいにして稲荷寿司をほおばる他に方法はないのだった。


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