「いないですね…」

「誘拐とかじゃねぇといいんだが…」



さらりとそういう赤木さんに、心当たりがあるんですかと聞きたかったが、それは野暮ってもんだろう。一応引退したとはいえ引く手あまたなのだから。赤木さんがタダじゃ転ばないと言ったら、そういうことをする輩もいるに違いない。



「もしかして、迷って遠くに行っちゃってるのかもしれませんよ」

「そうだな…」

「あ、野球広場とか…なまえちゃん、野球好きですよね」

「行ってみるか」



野球広場に行ってみると、草野球チームのユニホームを着たおじさんたちと、その家族がお弁当を囲んでいた。この騒動で忘れていたけど、そもそもは午前中に公園で遊んでいて、お腹がすいたから移動しようという流れだったのだ。なまえちゃんがうどんを食べたいと言っていたのが、やけに鮮明に浮かんできた。

ざっと見渡していると、こんなほのぼのした場所には合わない大きな泣き声が聞こえてきた。お母さんに叱られでもしたんだろうか。
声のする方を探す。見当をつけてその方向をみた瞬間、少し遠くから赤木さぁん、という声が聞こえた。嗚咽混じりでなんだかよくわからないが、確かにそう聞こえた。男ひとりと女ふたり連れのシートのあたりだ。男の影になっているのか、なまえちゃんらしき姿は見当たらない。

隣で落ちていたボールを拾っていた赤木さんは、その声を聞いて驚くべき速さで立ち上がった。これが40代の瞬発力だろうか。
そしてそのまま走り出す。右手にボールを握っている。振りかぶって…投げるつもりか!?
うん?ていうかなんだか見たことあるぞあの男のシルエット。あのシルエットに、頭の悪そうな笑い方。



「あ、赤木さん、ちょっとまって!」

「うるせぇ、ありゃなまえの靴だろうが…!」



振りかぶって投げられた球は、見事に男の頭に直撃した。恐ろしい。これは人間の成せる技なのだろうか。神の領域か。
僕はボールの当たった男をちょっと心配したが、十中八九読みは外れてないだろうと確信して、それなら10割大丈夫だ、と無駄な心配をするのはやめた。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -