「どーお?おいしいでしょ?」
「おいしい」
「こっちの卵焼きもほら、あーん」
「ねぇねぇ、俺には?」
「天は勝手に食べなさいよ」
「いいトシして、こんなちっちゃい子供にやきもち焼かないでよね」
なんだってまぁ、俺の嫁さんはふたりともなまえにつきっきりなんだ。ふたりもいるんだから、どっちか俺の相手をしてくれたっていいじゃないか。 ひとりでさびしくエビフライをつまんでいると、なまえがはっと気づいたように俺を見上げた。
「ん?エビフライ食いたいの?」
「天さん、おにいさん?」
「うん?まぁな」
「どっちかっていうとおじさんよねぇ」
「そうそう、もう片足つっこんじゃってる感じ」
「んじゃあおまえらもおばさんじゃねぇか!」
「あー、そういうこと言う?」
「てーん、あとでわかってるんでしょうねぇ?」
「うひゃっ」
出会った当初は、俺と嫁さんたちのこんなやりとりを少しおびえた様子でうかがっていたなまえだが、今では日常のように涼しい顔をして受け流している。 一日中赤木のケツを追っかけてたようなやつがひとりで公園に来るまでになるんだから、子供の成長ってのは早いもんだ。
「おにいさんだから、ひとりでトイレいけるもんね」
「そりゃあそんぐらいなぁ」
「なまえちゃん偉いねぇ、ひとりで来たんでしょ?」
「天なんてさ、こんなデカいくせになんでも三人一緒がいい〜ってダダこねるのよ」
「おにいさんなのに?」
「好きなやつと一緒にいてぇって思うのに理由なんているかよ!」
「きゃー、天ってばダイタン!」
「やめてよ、子供が見てる前で」
「なまえもいていい?」
「うん?おまえみたいなチビが何遠慮してんだよ」
嫁をまとめて抱きしめようとしてる横で、なまえがぽつんと何かを呟いた。あんまりよく聞こえなかったが、俺たちを見ていた目にはどんどん涙が溜まってきて、ゆがんだ口からはふにゃふにゃとした嗚咽が漏れだした。 どうしたどうしたとあっけにとられているうちに嗚咽は大きくなって、ふと気づいて膝に抱き上げてやると、小さな手で服をぎゅっとつかまれた。 やっぱりさびしくなったか。チビすけはチビすけのまんまだもんな。そう思ってあやしてやろうと思ったそのとき、今までなまえの口からはきいたことのないような、そりゃあ立派な大きな声で一発、赤木さぁんと叫んだのだ。嗚咽混じりでなんだかよくわからないが、確かにそう言ったはずだ。
「ふぅん、そんな声出せるんじゃなあ゛っづ!!」
「天!」
「ちょ、ちょっと天!大丈夫!?」
なまえが泣き出したぐらい突然に、後頭部に衝撃が走った。物心ついてから学校を出て、雀荘を巡ってそして強豪たちとせめぎ合う。今までの人生の流れが一瞬で見えた気がする。その中で際立っていたのは、原田と戦ったあの夜の出来事だっただろうか。 後ろから聞き覚えのある声がする。これが迎えの声か…と思うには、意識がはっきりしすぎていたと、あとになって気付いた。
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