「おまえぐらいのよ、ふにゃふにゃした女の子、見なかったか?」
「しらなぁい」
「さっきトイレに行ったんだけど、出てこねぇんだ」
「いま行ったけどだれもはいってなかったよ」
「そうか…サンキュ、悪かったな」
赤木さんの「ふにゃふにゃした女の子」っていう聞き方もどうかと思ったけど、トイレにだれもいないと言うのは大きな情報だ。だからと言って、じゃあなまえちゃんはどこへ行ったんだという問題への解決にはなっていないけど。
「白い猫の帽子かぶったふにゃふにゃした女の子、見なかったか?」
「キティちゃんのぼうしの子なんていっぱいいるよ」
「トイレから出てきたはずなんだ」
「あ、さっきみた!」
「ほ、ほんとに?どっちに行ったの?」
「でもキティちゃんいっぱいいるもーん」
「ひとりで出てきた、ふにゃふにゃしたやつだよ」
「ひとりぃ? ひとりはいなかったなぁ」
「…そっか、ありがとうね」
親の方に話しかけると逆に警戒されるので、僕たちは子供の方に聞き込みをしていた。なかなか有力な情報は手に入れられないが、それは情報源が子供だからというわけではなく、僕たちの聞き方が悪いか、なまえちゃんの隠遁力がすごいかだろう。
「どこ行っちゃったんでしょうね、なまえちゃん」
「あいつの性格からして、勝手にどこかに行くわけねぇんだよ…」
眉間にしわをよせて、不機嫌そうな様子だ。だけどそれはなまえちゃんに向けられた苛立ちではなく、むしろこういう事態になるまで気づかなかった自分へと向けられたもののように見える。 だけど確かになまえちゃんがひとりでどこかに行っちゃうなんて思いもしないし、責任は誰にあるわけでもないだろう。
「とりあえずこの辺探すぞ」
こうして赤木さんの号令のもと、大の大人ふたりによる「ふにゃふにゃした女の子」の捜索活動が始められた。
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