「なまえ、本当に一人で大丈夫か?」
「だいじょぶ」
「僕たちここで待ってるからね」
「もうおねえさんだから」
すっかり春めいてきた色を見せる公園に、僕たちは来ていた。子供向けのアスレチックもあるしちょっとした野球広場もあるし、向こうに行けばバーベキュースペースもある。中に入ったことはないけど室内広場のような建物もある。夏になれば水遊びのできる噴水もあるらしい。
そんな広い敷地の中の、アスレチック広場のベンチでの話だ。 一緒に散歩していても3歩ごとに僕たちの姿を確認していたようななまえちゃんが、ひとりでトイレに行くと言い出した。赤木さんも僕もそりゃあびっくりである。 すぐそこにあるとは言え、まさかなまえちゃんがそんなことを言う日が来るとは思っていなかった。
「珍しいこともあるもんですねぇ」
「こりゃあ雪でも降るんじゃねぇか」
赤木さんは普段通り飄々としつつもやっぱり気になるようで、なんだかそわそわと落ち着かない。 僕も心配しつつぼうっとアスレチックの方を眺めていると、なまえちゃんぐらいの背丈の子たちがやけにませているように見えるのに気付いた。この場合はなまえちゃんが幼いということになるのだろうか。民主主義の多数決的に考えて。 僕でも気付くのだから、本人はもっと感じるところがあったに違いない。それがこの行動なのだろう。赤木さんは気づいただろうか。
「…にしても遅いな」
「そういえば10分ぐらい経ってますかね」
言葉少なだった赤木さんが、立ち上がりながら言った。いつも一緒に行くといっても個室の中まで一緒なわけじゃないから、その辺の手順で戸惑うことはないはずだ。
「様子、見に行くか」
「そうですね……あ、」
「あ、」
「女子トイレ、入りましたよね、きっと」
なまえちゃんが僕たちと男子トイレに入るならともかく、僕たちが女子トイレに入るのはなかなか…かなり…誤解を生むというか、犯罪の香りしかしない。 しばらく赤木さんと顔を見つめあって(今思うとそれもかなりアレな光景だっただろうが)、どちらからともなく、聞き込みをするか、ということになった。
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