「あのね、かみ」



風呂からあがってくるなり「かみ」と満足そうな顔で言ってきた。



「かみ…?髪の毛か?」

「うん」

「あ、髪の毛拭けって?」

「ちがう、さっき言ってたの」



さっきってどのさっき、そう言いかけたところでその話題を思い出した。なまえの中ではあの話題は終わっていなかったらしい。いつもより輪をかけて静かだと思ったが、まさかずっと考えていたんだろうか。



「天も鷲尾も同じような髪型じゃねぇか」

「赤木さんとおなじだよ」

「なまえちゃんの好きな人…赤木さんとの共通点ってことじゃないですか?」

「赤木と俺…あ!」

「色か、なまえ!」



たしかに、天の髪は黒いし、俺と赤木の髪は色が薄い。簡単なようでいて実におかしななまえの説明に、俺たち3人は声を出して笑った。笑ったなんてもんじゃない、笑い転げた。



「その理論で行くなら次は銀次だ銀次、あいつに懐くかだ」

「だったら原田さんでもいいんじゃないですか」

「曽我と和尚で毛がない部門も調べるぞ!」



オッサン3人と少年1人が笑い転げていると、なまえは心配そうな困った顔でそれぞれを順番に見る。
ひろゆきには赤木の次ぐらいに懐いてそうだからその理論は違うんじゃないのか、と思ったが、きっとひろゆきが例外なんだろう。なまえが必死に赤木と俺の共通点を考えて、やっと見つけたのがそこなのだ、尊重してやるしかない。
赤木が「そうかなまえはジジイが好きなのか」と息も絶え絶えに言った。なんだかなまえの将来が心配だが、天みたいなバカに騙されるよりはいいか。ひろゆきの例外も、あいつが案外ジジ臭いってことを見透かしてのことなのかもしれない。


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