「おい鷲尾、これ面白いだろ?」
「お前いくつだよ…」
雪祭りから帰ってきた天が、頭の悪そうな顔をさらに弛緩させてぬいぐるみを見せつけてきた。ぬいぐるみの顔が顔だけに、並ぶと天のバカさ加減がより一層引き立つようである。前に店で見たときに、こんなもん一体誰が買うんだと思っていたが…意外と近くにいたらしい。
「その辺にしとけよ、なまえが怯えてるじゃねぇか」
ブルブル震えながら笑うぬいぐるみは、たしかに俺から見ても気味が悪い。なまえは、俺の背中に隠れて様子を伺っていた。 その様子を見ていた天が、急に訝しげな顔になった。眉間にしわをよせて、顎に手を当てて、何か考えている様子だ。
「なんだよ急に黙りこんで」
「俺も鷲尾も同じような体格で似たような髪型なのによ、なんでなまえは鷲尾にはそんなに懐いてるんだよ」
新聞を読んでいたひろゆきと、興味なさ気に観葉植物を眺めていた赤木の視線がこちらに集まった。2人とも天の言葉に同調するような表情をしている。
「お前と違って俺は野蛮じゃないからな」
「いやいや、鷲尾だって結構なもんだぞ」
「バカ言え」
「だってお前、鹿獲るんだろ?素手か?」
「素手じゃねえよ、お前と一緒にするな」
「鹿肉、もう残ってねぇのか?」
昨日の晩に出した鹿肉はたしかに俺が獲ってきたものだが、それは立派な文明の道具、銃を使って獲ったものである。ちゃんと許可も取って、至って文化的な趣味じゃないか。なんでも共有財産制のインディアンとは違うのだ。(これはひろゆきに聞いた情報だが) インディアンは鹿肉の美味さを思い出すと同時にさっきの疑問を忘れたらしく、知らん顔をしてひろゆきに「テレビ欄を見るから新聞を貸せ」と詰め寄っている。気にしているのは残された3人だけだ。
「なまえちゃん、さっきの質問の答えは?」
「質問?」
たまらなくなったひろゆきがなまえに直接問うが、目の前から不気味な物体が消えて安心したなまえはさっきの話なんて聞いていなかったらしい。
「鷲尾さんも天さんもあんまり違わないのに、なんで鷲尾さんは怖くないのって」
はっとした顔で「なんでだろう」と呟くと、なまえは考えこんでしまった。なんだ、自分でも気づいていなかったのか。 その話題はそれっきりで、まぁ天は野蛮だからな、と言うことで終わった。
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