「お、あれなまえの好きなやつだろ」

「僕んち来たときも見てたね」

「まぶしい…」



芸能人の雪像やらキャラクターの雪像やらたくさんあるけど、よくこんなに上手く作るもんだなぁ、と思わざるを得ないぐらいどれもよくできていた。そんな雪像がずらりと並んでいるのだから、そりゃあもう圧巻だ。あれはどうやって作ってるんだろう。



「これってよ、途中で雪積もったらどうするんだ?」

「積もったならはらえばいいけどよ、溶けたら大変だよなぁ」



天さんと赤木さんが素朴な疑問を像に投げかけながら歩いていると、なまえちゃんが赤木さんを追いながら変な動きをしている。赤木さんに手を伸ばしては引っ込めて、首を傾げているのだ。そしてそれを3回繰り返した後、意を決したように赤木さんのジャンパの裾を掴んだ。



「おぉ、どうした、なまえ」



後ろから見ていた僕にはなまえちゃんがどんな顔をしていたかわからないけど、赤木さんは何かに気づいたようにポケットから左手を出すと、裾をつかんでいたなまえちゃんの右手を取った。そこで気づいたけど、赤木さんはこの寒さだと言うのにマフラーも手袋もしていない。



「赤木さん寒くないんですか」

「寒いに決まってるじゃねぇか」

「北海道ナメちゃいけねぇぜ、もう若くないんだから」

「なまえは大丈夫か?」

「だいじょぶ」



なまえちゃんも天さんも帽子をかぶって、手袋もマフラーもして完全防備だ。なまえちゃんと天さんの帽子はお嫁さんたちの手編みで、なまえちゃんの方には頭のてっぺんのところにポンポンが2つついていて、クマのみたいになっている。お嫁さんたちが、天さんもクマにしようとしていたのを思い出して笑えてきた。結局僕が必死に止めたので、今天さんの頭の上ではポンポンがひとつだけ揺れている。



「赤木さん、さむい?」

「んー、寒いなぁ」



それを聞いてなまえちゃんは立ち止まった。そしてせっかくポケットから出してもらった赤木さんの手を離しすと、両手をあげて赤木さんを見上げる。



「だっこか?」

「ちがう」

「あ、あぁ、しゃがめってか」



なまえちゃんが挙げた手を縦に動かすと、赤木さんは何かを理解したようで、その場にしゃがんだ。なまえちゃんが手を自分の首の後ろにまわす。コートと手袋のせいで多少もたつきながらもマフラーを外すと、それを赤木さんの首にかけた。



「いいって、なまえ寒いだろう」

「ぼうしと手袋あるからだいじょぶ」

「俺はお前があったかい方が嬉しいんだけどな」

「いらない?」



なまえちゃんがすごく悲しそうな顔で聞くものだから、赤木さんはそれ以上何も言えなくなったみたいだ。参ったなといいたげな顔をして、喉の奥で笑いながらなまえちゃんのほっぺを両手で挟んで「ありがとな」と呟くと、赤木さんは立ち上がった。なまえちゃんと赤木さんが手を繋いで、僕たちは再び歩きだす。
どう見ても女の子用にしか見えないきれいなピンク色のマフラーを巻いた赤木さんの、なまえちゃんを見る表情が柔らかい。微笑ましい光景につい口元を緩めていると、天さんも同じ顔をしている。目が合って2人でふっと笑うと、白い笑いの軌跡が拡散した。


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