9時ぐらいに天さんに叩き起こされて、気づいたら東京タワーの前にいた。いや、違う。東京タワーにしては小さい。地下鉄の暖かさで半分眠りかけていた頭が、地上に出て急に冷やされて麻痺したんだろうか。あれはテレビ塔だ。

天さんは売店に売っているいやらしい顔をしたマリモ人形の股間を引っ張って喜んでいるし(その人形はブルブル震えながら笑うのだ、気味が悪い)、赤木さんはたくさん種類のある、いやらしいマリモのキーホルダを、ああでもないこうでもないと吟味している。なまえちゃんは、やたらリアルに描かれている熊のステッカーが怖いらしい。熊出没注意って言うぐらいだから、それぐらい怖くなきゃダメなんだろう。

今日は鷲尾さんに用事があるとかで、僕たち東京組だけで街に繰り出してきた。この時期に北海道に来ると言ったらこれしかない、雪まつりを見るためだ。
天さんも赤木さんも、昨日あんなに夜遅くまで騒いでいたのに、元気すぎやしないだろうか。僕はと言えば、情けないことに筋肉痛で身体が痛かったし、昨夜のお酒のせいで少し頭も痛かった。



「おい、ひろ、これ見ろって、おっかしいだろ!」

「さっきから見てますよ」

「なんだよノリ悪いな…ほらなまえ、面白いだろ」

「ヘンなかお…」



なまえちゃんは、明らかに引いた顔をしている。たしかにマリモの存在をしらなかったら、これはただの緑色の卑猥なキャラクターだ。僕がそっけないのは頭が痛いからだろうか、それともそのぬいぐるみがあまりにも下らないからだろうか。



「ひろとなまえ、なんかいるか?」



赤木さんにそう言われてなまえちゃんが選んだのは、木でできたキツネのキーホルダーだった。胴体と尻尾の部分が金具で繋がれていて、ゆらゆらと揺れる尻尾がかわいい。僕も同じ物を赤木さんに渡した。



「おそろい?」

「うん、おそろい」



おそろいだね、ともう一度呟いて、はにかんだように笑うなまえちゃんについつい僕もつられてしまった。僕の人生で初めての「女の子とおそろい」の相手は、なまえちゃんということになるらしい。


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