「なまえもひろもなんでそんなに雪まみれなんだよ」

「僕は突然雪玉に襲われまして」

「なまえね、天さんがひっぱっててね、落ちたの」



雪まみれの僕たちは玄関でジャンパー(と、なまえちゃんはズボンも)を脱ぐことを命令された。なんだかいい匂いがして、急にお腹がすいてきた。



「どうせそんなことだろうと思ってたけどな」

「くつもびちゃびちゃ」

「ストーブの前で干しとけ、そしてひろとなまえは先に風呂入ってこい、さっき赤木が上がってきたばっかだからよ」

「なんかすいません…」

「ったく、俺はお前らの母ちゃんじゃないってんだ」



そう言いながらも、鷲尾さんはいろんなところから水の滴るなまえちゃんを抱えてお風呂に運んでいた。脱衣場まで行って気づいたけど、これはなまえちゃんと裸の付き合いと言うことか。相手は子供と言えどもなんだか複雑な気分だ。だけど手足と耳が限界なのも事実、えいやと腹をくくって風呂場に足を踏み入れた。
先に湯船にいたなまえちゃんは、お湯に顔をつけている。僕が湯船に入ると息を吸いながら顔を上げて、そして本当に驚いた様子で肩をビクっと震わせた。



「あ、赤木さんじゃなかった」

「そうだね、赤木さんもう入ったからね…」

「そうだった…」



驚いた様子のなまえちゃんは、再び息を吸い込んで顔をお湯につけた。いち、に、さん、し…心の中で数えていると、10数えるか数えないかのところで顔を上げた。



「赤木さんとね、どっちがながいか競争なの」

「勝ったことは?」

「ない」



さすがと言うかなんと言うか、子供にも容赦ないなぁ。それで拗ねないで一生懸命練習するあたりもなまえちゃんらしい。



「いつも赤木さんとお風呂入ってるの?」

「うん、洗ってもらうの」

「あ、もしかして僕が洗わなきゃいけない感じ?」

「たぶん…」



交代でシャワーを使えばいいかな、と思っていたけどそうもいかないらしい。もちろん僕は子供と一緒にお風呂に入ったこともなければ、洗ってあげたこともない。これは困ったぞ。
でもこれに関しては運の入り込む余地はないから、赤木さんも最初からうまくやっていたわけじゃないだろう。きっと僕にもやってできないことはないはず。
1つしかない椅子になまえちゃんを座らせ、僕は手にシャンプーを取って頭を洗い始めた。他人の頭を洗うってことがまず非日常だけど、なまえちゃんの頭と言うのがまた小さくてなんともやりにくい。髪も細くて、どのくらい力を込めていいかもわからず手探り状態だ。



「こ、こんな感じ?」

「だいじょぶ」

「じゃあ流すよ」



シャワーヘッドを手に持って、お湯の温度を確認する。なまえちゃんは目と口をぎゅっと閉じて、耳を手でふさいだ。同じようにしてリンスも流し終えると、なんだかほっとした。肩の荷がおりたような、そんな気持ちだ。頭さえ終わればあとはなんとかなるだろう。
先に洗い終えたなまえちゃんを湯船に浸からせて、僕も急いで自分を洗った。まぁ、20年一緒に生きてきた自分の体、そんなに手間取ることもないんだけど。体を洗い終えて僕も湯船に入ると、脱衣場に誰かが来たようだった。



「なまえ、ここに着替え置いとくからな」

「はぁい」

「ちゃんと暖まれよ」

「あっつい」

「あと、ひろになんか変なことされそうになったら叫ぶんだぞ」

「しませんよ」



笑いながら赤木さんは出ていったようだ。何をするって言うんだ。いくらなまえちゃんの肌がすべすべで柔らかな幼児体型で、特に太もものあたりがおいしそうだと言えども僕にそう言う趣味はない。ああ、そう言う趣味はなかったのか。なぜか安心した自分に気づいて首を横に振ると、なまえちゃんが上気した不思議そうな顔で僕の顔をうかがった。


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