「ひろくん、ひろくん起きて」

「んん…」

「ついたよ、ひろくん」

「あぁ…、って天さん!?」



なまえちゃんの声にしては低いなと思ったら、ドアを開けてなまえちゃんを降ろそうとしている天さんがいた。



「え、どう言うことですか?」

「ひろ、お前本当に寝てたんだなぁ」

「車の中ではなしてたよ」



荷物を降ろしている赤木さんと、天さんにだっこされたままのなまえちゃんが言った。



「北海道の雀荘回ってたらよ、鷲尾に出くわしたんだよ」

「それで1回家に呼んだのが運の尽きさ、気づいたら3人増えてるしよぉ」



最近なりを潜めていたから忘れかけていたけど、天さんのインディアン的財産共有思考はまだまだ健在だったらしい。なんだか鷲尾さんに申し訳ない気がしてきたのは僕だけだろうか。天さんはもはや自宅のようにくつろいでいるし、赤木さんももちろんそんなことに気を使うような人ではない。なまえちゃんも鷲尾さんとは仲がいいみたいだ。



「ちっとは大きくなったか、なまえ」

「もうちょっと」

「その調子でどんどん赤木からむしり取ってやれ」

「むしるの?」

「そうだ、赤木からむしれるのはなまえだけだからな、期待してるぞ」



何が「もうちょっと」なのかはわからなかったけど、赤木さんから何かをむしり取れるのはなまえちゃんだけだと言うのに妙に納得させられた。



「なまえ知ってるか、北海道じゃあ蛇口ひねると牛乳が出てくるんだぜ」

「牛乳きらい…」

「水じゃなくて牛乳飲んでるから鷲尾はあんなにでかいんだぞ」

「天さんも北海道?」

「俺は熊に育てられたからな」



なまえちゃんは全部信じたらしく、驚きとも感嘆とも取りがたい微妙な顔をして頷いた。天さんが熊の子なら、なまえちゃんはウサギの子だろう。それなら天さんを怖がるのも無理はない。僕がクスクス笑うと、なまえはお得意の「なんで笑うの」と言う顔をしてこっちを見る。



「大丈夫、なまえちゃんがおかしかったわけじゃないよ」

「おい、外見ろよ!」



カーテンを開けて天さんが叫んだ。外を見てみると、新しく雪が積もっていた。僕らが家に入ってから1時間かそこらでこんなに積もるなんて、さすが雪国。僕が関心していると、天さんがいやーな感じでニヤリと笑った。ろくでもないことを提案されそうな気がする。



「なまえ、ひろ、ジャンパー着ろジャンパー」

「まさか外で遊ぶなんて言う気じゃないですよね」

「なーに言ってんだよ、北海道来て雪で遊ばないやつがあるか!ほら、さっさと表出ろ!」



やっぱり。やっと暖まってきたのにわざわざ身体を冷やしに行くなんて僕はごめんだ。行くならなまえちゃんとふたりで行ってくださいよ、そう言いたかったが隙も与えず天さんに連れ出されてしまった。鷲尾さんの「そんなに雪が珍しいかね」ボソッと呟いていた声がやけに耳の奥に残った。ストーブの前で寝ている赤木さんを尻目に、僕と天さんとなまえちゃん、イレギュラーな組み合わせの強制雪遊びが始まった。


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